生きている意味

27.夏の終わり


(3/9)


親子を伴って、マガナミは木ノ葉を出発した。

「今日はお二人でお出掛けですか?」

マガナミの問い掛けに、親子はハッと顔を見合わせた。

「い、いえ…娘と三人で…」

「へぇ、お姉ちゃん?」

「妹」

答える親子の表情は硬い。

「娘さんは今は一緒じゃないんですか?」

親子の顔はいよいよ青くなった。

マガナミは大いに慌てた。

理由はわからないが、自分の何気ないつもりの質問が、この親子を追い詰めているらしい。

何か事情があるのかもしれない。

マガナミは不必要な会話は控える方針に転換した。

首を伸ばして景色を眺める。

今日はいい天気だ。

木々の通夜が反射して生き生きして見える。

最近は気温も落ち着きつつあったが、今日はまた真夏に戻ったような暑さだった。

喉元を汗が伝う。

ヒヤリとした。

マガナミは、その汗が暑さのせいではないと気付く。

流れ伝ったのは冷や汗だった。

なんだろう、胸騒ぎがする。



――今ならまだ、引き返せる。



「え?」

「な、なんですか?」

「あ、い、いえ、何でもないんです。ごめんなさい」

今、声が聞こえた。

――引き返しても、いいんだよ。

まただ。

引き返す?

どういうこと?

引き返していいと言われても、この親子を置いて帰るわけにもいかないではないか。

しかし、胸には正体不明の靄が燻る。

なんとなく重い気持ちのまま、マガナミは再び歩き出した。

そして二本の分かれ道に差し掛かる。


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