25.サワトと第十班
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「私たちには、あんたが仲間だっていう記憶がある。偽物の記憶だって頭ではわかってても、心が納得しないのよ。今でもあんたは、私たちの仲間なの!」
サワトは目を逸らす。
そしてその視線を戻せないまま、押し出すように言葉を落とす。
「一時的なものだ。ボクがいなくなれば直に消える記憶だよ」
マガナミはそっとサワトを見た。
そうではない。
いのが、彼らが聞きたいのは、もっと別の答えだ。
サワト自身も、わかっているはずだ。
マガナミは彼の服の裾を軽く引く。
「言った方がいい。きちんと、自分の気持ち」
サワトはやんわりと首を振った。
「ボクたちは自分たちの行いを悔いてはいない。この先も、別の地で、この地で、同じことをするだろう。そして、特定の土地の人間に思い入れることはない。仕事に差し障るからね」
嘘だ。
だってさっき言っていたではないか。
彼らの仲間でいることに心地よさを感じるようになっていた、と。
けれど、彼がそう答えるのは彼の一族のためだ。
これが彼の生き方であり、これからも彼はこうやって生きていくのだ。
それを否定することは、マガナミにはできなかった。
マガナミは何も言えなくなってしまった。
いのも口を噤み、沈黙が降りる。
サワトはおもむろに胸の前で両手を組んだ。
「行くよ。今回のことは、確かにきみたちにしてみれば抵抗のあることだったと思う。だけど、ボクたちもむやみやたらにやっているわけじゃないんだ。わかってくれとは言わない。けど、謝るわけにもいかないから。また別の形で会うこともあるかもしれないね。その時はもう少しスマートに任務を処理できるように鍛錬しておくよ。それじゃ」
サワトは印を結び始める。
「サワト」
そんな彼をシカマルが呼び止めた。
サワトは手を止め、シカマルに目を合わせる。
「…きみだったら、わかるはずだ」
「ああ。侵入されたのはこっちの落ち度だし、幻術掛けられて気付かないのもこっちの実力不足だ。長郷一族の特殊性を考えれば、お前を咎める理由は見当たらねえな」
シカマルのあっさりした物言いに、サワトは却ってバツが悪そうな表情を浮かべた。
「なら、何?」
「たまには遊びに来いよ」
「へっ?」
サワトは間の抜けた声を上げた。
マガナミを含めた他の人間も、驚いてシカマルを振り返る。
「一体…」
サワトは何と答えてよいのか迷っているようだ。
だから、とシカマルは続ける。
「一族のことはとりあえず置いといてよ、お前が個人的に遊びに来いって言ってんだ」
「だから、そういうわけにはいかないって。顔を覚えられることだって、本当はよくないんだ。わかるだろ。それに、そんなに都合のいい…」
「確かに、考え方によっちゃお前たちみたいな生業の人間が他人に顔を覚えられるのはマイナスだ。けど、各所に信頼できる人間を作っておくことも重要なはずだぜ」
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