生きている意味

24.サワトとマガナミ


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サワトの反応に、マガナミは身を乗り出す。

「井染を知ってるの!?」

サワトは口を開けたまましばらく固まっていた。

それから、恐る恐ると言った様子でマガナミに問い掛ける。

「井染と、きみの関係は?」

マガナミはしばし息を止めた。

しかしやがて短く答える。

「私の一族」

それを聞いた途端、サワトは目に見えて動揺…いや、放心と言った方が近いかもしれない、ともかく、落ち着かない様子を見せた。

「まさかとは思ったけど…本当に…」

うわごとのように何事かを呟いている。

やがてマガナミを真っ直ぐ見据え、懐から取り出した手のひらサイズの笛を差し出した。

「きみはこの笛に見覚えがある?」

年季の入った白い笛だ。

作られてから長い時間、丁寧に使い込まれてきた趣がある。

だが特に見覚えはない。

マガナミは首を傾げる。

「これは『言笛』という名の笛だよ。空間に作用する特殊な笛で、長郷一族の秘宝だ。井染という一族からの献上品だと伝えられている」

マガナミは驚愕に身体を震わせた。

「言笛!うそ…」

サワトは、ただ無言で頷く。

「井染一族は、言笛の献上を条件に、以降は長郷一族として暮らしたと聞いている」

少し言いにくそうにそう告げた。

マガナミはその場に崩れ落ちた。

サワトが慌てて駆け寄ってくる。

「大丈夫?」

マガナミは神殿に集まっていた井染の人々を思った。

神殿から言笛が消えていることに気づいた人々。

疑いの目はマガナミに向けられ、血相を変えて自分を探し回る人々からマガナミは必死に逃げた。

そのただ中、マガナミは崖から足を滑らせて落下したのだ。

目を覚ました時、そこは木ノ葉病院だった。

あの後、人々や言笛がどうなったのか、マガナミは知らない。

それはマガナミがずっと気に掛けていたことだった。

マガナミはある事実を確信する。

「無事だった…。みんな無事だった。言笛は見つかったんだ…。よかった……」

マガナミは大きくため息をついた。

震える胸を両手で押さえこむ。

そうして悟る。

彼が何に驚いているのか。

「信じられない…やっぱりきみは…」

サワトは小さく首を振った。

マガナミはサワトを見上げる。

マガナミも信じられない思いだった。


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