24.サワトとマガナミ
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できるのか、という言葉は飲み込んだ。
マガナミにこんな嘘をついたところで何の利益にもならないし、シカマルたちの言動からしても、彼の言うことは真実であろうと察せられたからだ。
「じゃあ、私があなたを村人だと思ったのも…」
「この術のせい。ボクにはきみに対する予備知識がなかった。だから記憶の誘導ができなかったんだ。結果、きみは、きみとボクを結びつける最も自然な記憶を作り上げた」
そういうことだったのか。
相手を仲間だと認識するためには、相手と自分との接点になりそうなものを記憶の中から探さなければならない。
シカマルたちの場合は、ごく自然に里の仲間だと認識するだろうと納得できる。
サワトによる誘導もあったのだろう。
だが、マガナミは木ノ葉に来るまでは井染しか知らなかった。
木ノ葉の里にも仲間と呼べる人間はできたが、それはほんの少数しかいない。
マガナミの記憶の行きつく先は井染しかないのだ。
「本当はきみとは術を解いた状態で出会いたかったんだ。ボクときみは初対面だから、きみに術は必要ない。むしろ余計な記憶の改ざんが起こって支障が出てきてしまう。今回みたいにね。苦し紛れに『初めまして』って言ってみたけど、やっぱり術の方に引かれちゃったみたいだな。けど、あの時は術を解くわけにはいかなかったんだ」
マガナミはその理由に思い至った。
「シカマルがいたから…」
「そう。記憶を操作した人間の前で術を解けば、記憶の齟齬に気づかれてしまう」
けれど、術中の人間の前では常に術を掛け、術に掛かっていない人間の前では常に術を解かなければならないのだとしたら、その使い分けは非常に困難なはずだ、とマガナミは思う。
「でも、いつかは私がシカマルやいのたちと一緒にいるときに、あなたに出会うことになる。私がいるときだけ術を解くのは難しかったと思う」
「ああ、そこはね…一度出会って互いの関係性さえ確定してしまえば、後は、術はボクを不自然に見せないように働くだけなんだ」
「そう…」
作られた記憶だったのだ。
自分のサワトに対する記憶も、シカマルたちの彼への仲間意識も。
「どうして、そんなこと…」
サワトは寂しそうに笑った。
「情報収集だよ。必要な情報を得るためさ」
マガナミはしばらく黙ったまま彼を見つめる。
彼の瞳の揺らぎを垣間見た。
「あなたは悲しんでるのね」
サワトの表情が硬くなる。
「シカマルたちのこと、あなたは仲間だと思ってた」
サワトはため息とともに笑みを浮かべた。
「羨ましかった。故郷を持つ彼らが」
故郷への憧憬。
自分を受け入れてくれる場所を求める心。
それはマガナミにもよくわかる気がした。
「彼らの結束の強さは、彼らの温かさは、故郷があるからこそ生まれたものだ。そう思えるんだ。ボクは彼らの仲間でいることに心地よさを感じるようになっていた」
マガナミは微笑んだ。
「うん、わかる」
「ボクは彼らと、彼らの住むこの土地で、ボクらの仲間と共に暮らしたかったのかもしれない」
「…そう」
サワトは視線を空へ転じた。
まるで遠い記憶を探るような視線だった。
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