23.サワトとシカマル
(6/6)
マガナミは逃げた。
がむしゃらに逃げた。
雑踏を駆け抜け、人にぶつかり、怒鳴り散らされても、構わず逃げた。
息が苦しい。
吐き気がする。
目の前が歪む。
あれは。
あれは。
間違いない。
彼は。
荒い息が鼓膜を揺らす。
井染の人間だ。
身体の節々が悲鳴を上げる。
どうして。
どうしてここにいるの。
どうして。
いまさら。
戻りたくない。
帰りたくない。
離れたくない。
ここに居たい。
助けて。
助けて!
「逃げないで」
すぐ側で声がした。
マガナミは反射的に叫び声を上げ、腕を振り回す。
しかし、振り上げた腕はいとも簡単に掴まれ、自由が利かなくなってしまった。
振りほどこうと必死にもがき、更に悲鳴を上げる。
「落ち着いて。大丈夫。きみの記憶は偽物だ」
自分の悲鳴の合間から、彼の低い声が届く。
マガナミはハタと抵抗を止め、彼を振り返った。
彼は静かな視線を返す。
マガナミは、憑き物が落ちたようにその場にへたり込んだ。
「きちんと話すよ。聞いてくれる?」
マガナミは小さく頷いた。
20160429
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