生きている意味

22.はじめての夏祭り


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突然いのが立ち上がった。

「居ればいいわよ!いつまでも木ノ葉に!」

サクラも続いて立ち上がる。

「そうよ!水臭いこと言わないで!私たち、マガナミのこと仲間だと思ってる。もう木ノ葉の一員だって思ってるんだから!」

「うん!ボク、マガナミがいなくなったら嫌だよ!」

チョウジも大きく頷いた。

「オレたちを信じるって、決めたんだろ?」

シカマルも口を添える。

マガナミは嬉しそうに笑った。

しかし、陰は消えない。

「みんななら、そう言ってくれると思った。すごく嬉しい。本当に、そうできたらいいって心から思うよ」

ひと際大きく笑んだが、その笑みはすぐにしぼんでしまう。

「でも、里にはたくさんの人が暮らしてる。私のこと、よく思ってない人たちがいることも、知ってる。いつまでも、こうしてはいられないよ」

シカマルはマガナミを見つめた。

こんなことを考えていたなんて、知らなかった。

以前夕暮れ時にベンチで話した時、自分は「処遇のことは心配するな」と告げた。

すると、マガナミは安心したように頷いた。

それで、彼女の中のしこりは取り除けたと思っていたのだが。

それにこの前の森での一件。

怪我の功名というか、雨降って地固まるというか、チョウジも言っていたが、あれ以来、マガナミはずいぶん明るくなった。

木ノ葉にもようやく馴染んだのだと思っていた。



いつからだ?

いつからこんなことを思っていた?



いつまでも、こうしてはいられないよ。



シカマルはマガナミの最後の一言が気になっていた。

なんとなく、何かを予感しているような、そんな響きに聞こえたからだ。

やけに喋るマガナミをつい先ほどまではよい傾向だと思っていたのに、今は胸がざわついた。

ただの気のせいならよいのだが。

わだかまる胸の内を押し隠し、シカマルは前を見たまま話し出した。

「確かに、里の全ての人間に受け入れられるのは難しいだろうな」

「シカマル」

止めに入ったサクラの肩に、いのがそっと手を乗せる。

サクラがいのを振り返ると、いのはただ静かに頷いた。

「里には多くの人間がいて、それと同じ数だけ考え方がある。全ての人間の考えが一つに重なることはねえよ」

シカマルはマガナミと他の三人に向き合った。

「けど」

四人の視線がシカマルに集まる。

「それでもオレたちは、こうして同じ里で暮らしてる」

いの、チョウジ、サクラの三人は、表情を和らげ、力強く頷いた。

そう、考え方が全く同じ人間など一人としていない。

けれど、それでも人々は、同じ里で、一つの共同体として暮らしている。

共に暮らすことができるのだ。

確かにマガナミの存在は里の人々すべてに受け入れられるものではないだろう。

だが、全ての人間に受け入れられないわけでもない。

ここにいる仲間たちのように。

今は受け入れられない人々にも、時間を掛ければ、きっとわかってもらえる。

だが、マガナミだけは視線を落として笑った。

「みんなは、里の人だもの。里で暮らす権利がある。でも、私は違う」

シカマルは、俯いたマガナミの横顔を眺める。

マガナミの言うことはよくわかる。

要は、一番の問題はそこなのだ。

里の外の身元不詳の人間。

里にとっての脅威となり得る存在。

だから受け入れられない。

シカマルも最初は、まさにこの理由から、マガナミを警戒していた。

けれど、今は違う。



――オレはただ、我愛羅を助けたかったんだってばよ。



ナルトの言葉が頭を掠める。

ナルトが我愛羅の暴走を止めた…いや、我愛羅を救った数日後、シカマルはナルトに言ったことがある。

――我愛羅ってやつ、砂隠れの里でも危険視されてるらしいぜ。他里のお前が首突っ込んでいい問題じゃねーだろ。

するとナルトはこう返した。

――他の里とか、そんなこと関係ねーってばよ。オレとあいつは、同じ痛みを知る人間だ。だから助けたいと思った。人が人を助けたいと思うことの、人が人を助けることの、どこに問題があるってゆーんだよ。

相変わらず道理のわからないやつだな。

あの時はそう思ったし、今でもナルトの考え方には納得できない部分も多い。

けれど、今なら少しはわかる。

里の人間でないということは、すなわち手を振り払う理由にはならないのだ。

相手に対する信頼があれば、強い思いがあれば、その思いに身を任せてもいいのかもしれない。

もし万が一、マガナミが里にとっての脅威となるような場合は、自分がこの手でけりをつければいい。

一人でけりをつけられないような時でも、自分には仲間がいる。

必ず何とかしてみせる。



シカマルはマガナミに向かってニッと笑った。

「前にも言ったろ。お前の権利なら、オレが保障してやる。お前が里に居たきゃ、ずっと居ていいんだ。なに、身分の証明だけが人の信用を勝ち得る唯一の手段じゃねーよ」

マガナミは息を止めてシカマルを見つめている。

しばらくの間、そのままピクリとも動かなかった。

琥珀色の瞳に電飾の様々な色が映り込み、揺れる。

それはまるで、マガナミの心の中を映し出しているかのようだった。

やがて思い出したかのように大きく息を吸い込み、その息は笑みとなって漏れた。

「うん、ありがとう」


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