生きている意味

22.はじめての夏祭り


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「すごい…」

マガナミは目の前の光景に心を奪われ、感嘆のため息を漏らした。

まっすぐな一本道の両脇に様々な種類の出店が並び、屋台や木々には赤や青、緑、いろんな色の電飾が施されている。

そしてその先には大きな広場があって、中央にやぐらが組まれていた。

もちろん広場も光に溢れている。

光は別の光と重なり合い、ゆらゆらと揺れてもやを作る。

まるで光の国にいるような光景だった。

通りにも広場にも人がいっぱいで、店の人の掛け声や笑い声で、夜とは思えないほど活気に満ちていた。

マガナミは全ての景色を見逃すまいと忙しなく首を巡らせる。

「よお姉ちゃん!買ってかねーかい?」

声が掛かって店の方を見ると、頭に鉢巻きを巻いたおじさんが、右手に白い玉のようなものを持ってニコニコしていた。

マガナミは引き寄せられるようにその店に近寄る。

「なに?それ」

「驚いた、姉ちゃんわたあめ知らないのかい?」

「わたあめ?」

「甘くて、口の中でふわっと溶けるんだ。うまいぞぉー」

「わたあめ…」

マガナミはおじさんの持つわたあめとの距離を詰める。

その玉は、綿のようなものが割り箸にふわりと巻きつくようにして出来ていて、とても柔らくて軽そうだった。

「…不思議。雲みたい」

これをそのまま空に浮かべたら、雲になるんじゃないか。

とマガナミは思った。

広い広い空に浮かぶ、真っ白な雲。

悠々と空を泳ぐ、自由な雲。

「なんだ、わたあめがほしいのか?」

背後から声が掛かる。

シカマルたちが追いついてきたようだ。

マガナミは振り返ってわたあめを指差した。

「シカマル、すごい!雲みたい!」

シカマルはキョトンとして左右のチョウジといのと視線を交わす。

サクラも目をパチクリさせている。

四人同時に吹き出した。

「大した興奮のしようだな。お前がそんなに笑うの、初めて見たぜ」

シカマルの返答に、マガナミは恥ずかしくなった。

確かに、こんなに大きな声を出したのは初めてかもしれない。

一人ではしゃぎ過ぎただろうか。

盗み見るようにしてシカマルに視線を合わせると、彼は大きな笑みを浮かべていた。

いつものニヒルな笑みではない。

彼にしては珍しい、屈託のない笑みだ。

マガナミは、ドクンという音と共に、頬に熱が集まるのを感じた。

わ、わ。

どうしたんだろ?

マガナミの動揺をよそに、シカマルはこちらに近づいてくる。

外に漏れ出るかと思われるほどに、鼓動は高鳴っていた。

彼はマガナミのすぐ横に立ち、手を伸ばす。

空気が頬を掠った。

「雲みたいなだけじゃなくて、甘いんだぜ。食ってみろよ。おっちゃん一本ね」

「まいど!」

シカマルはマガナミの目の前にわたあめを差し出した。

すると、胸の高鳴りはどこへやら、マガナミの意識はすぐにわたあめへと移った。

差し出された割り箸をそっと掴むと、クルリと回して、その雲のような表面を観察する。

そして、恐る恐るわたあめをつついた。

やはりすごく柔らかい。

端の方を摘まむと、綿の繊維のようにほどけた。

「はぁー…」

マガナミはため息を漏らす。

小さく喉を鳴らしてから、そっと口の中へ運んだ。

その時のことを振り返ってシカマルは、こう評した。

あの時のあいつは、そのまま空まで昇りかねないほど舞い上がっていた、と。


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