19.信じるということ
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これから先が自分にあるのだろうか。
彼らに見捨てられ、行く宛てもない自分に。
――あんたは生きて、生きて、生きて、一生分、この世の絶望を味わうの。
ずいぶん久しぶりに、母の声が聞こえた。
そうか。
自分に残されているのは「生きる」ことだけだ。
自分からすべての付属品を取り去って残るのは、それだけ。
そう、付属品を取り去ってしまえば…。
胸に下げているネックレスを握る。
悲しかった。
悲しいというのはこういうことなのだと、痛いほど思い知らされた。
「あれ?君は…」
突然響いた声に驚いて顔を上げると、目の前に人が降ってきた。
忍装束を身にまとっている。
スリムな体型で、顔にはマスク、片目を覆うように額当てを掛けている。
木ノ葉の額当てだ。
一度会ったことのある人物だった。
アスマセンセイと一緒にいた人、確か、はたけカカシといった。
「マガナミ…だね?何してるの?こんな時間に、こんなところで」
マガナミは答えに窮した。
何と答えればよいのか。
森に置き去りにされたとでも?
下を向いて黙りこんでいるマガナミをカカシはマジマジと見つめる。
そして探るような声色で話し掛けた。
「ねえ、君は…」
が、途中で言葉を切る。
「いや、こんなところでする話でもないか」
そして改めてマガナミに声を掛けた。
「とにかく木ノ葉に戻ろう。おぶさって」
カカシはマガナミの腕に触れる。
マガナミは反射的にそれを振り払った。
「いいっ!戻らない!」
戻ったらきっと、彼らは困る。
「戻らないって…こんなところにいてもしょうがないでしょ」
「平気!」
マガナミは間を置かずに切り返す。
カカシは静かな瞳でマガナミを見つめた。
そして一つため息をつく。
「そんな顔で平気って言われてもねえ」
マガナミは自分がどんな表情を浮かべているのか気付いていなかった。
今にも泣き出しそうな悲痛な顔をしていたというのに。
「…何があったの?」
マガナミは視線を落とす。
そして、しばしの沈黙の後、今までの経過をポツリポツリと語った。
マガナミの話が終わると、カカシはマガナミに問い掛けた。
「その話は本当だね?」
その声色は少し硬い。
マガナミはおずおずと頭を下げた。
カカシは周囲をサッと見渡す。
そしてマガナミに目を合わせた。
「とにかく一度木ノ葉に戻るよ。今度は待ったなしだ。彼らに何かあったかもしれないからね」
「えっ…」
マガナミは驚きの声を漏らした。
同時に頭が真っ白になる。
腕を強く引かれて担がれたところ辺りから記憶がなかった。
気付くと、マガナミは木ノ葉に戻ってきていた。
「じゃ、オレは彼らのこと探しに行くから。君は家に帰ってるといい」
マガナミは首を横に振った。
カカシはそんなマガナミを宥める。
「ここにいても状況は変わらないから」
それでもマガナミは頑なに首を振った。
カカシは苦笑と共に肩を落とす。
「イズモ、コテツ。ついててあげて」
門番についていたイズモとコテツは、状況が掴めないながらも緊急性を感じ取り、素早く肯定の意を示した。
それを見てとったカカシは、その場からあっという間に姿を消した。
シカマルたちに何かあった?
そんな…そんな…。
マガナミは茫然とこの言葉を反芻していた。
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