生きている意味

18.こころの泉


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「ここだ」

マガナミは内側に深く潜った意識を浮上させ、周囲を見渡す。

シカマルは建物の外階段に足を掛けていた。

マガナミが気付いたのを確認するとそのまま上っていく。

マガナミは小走りでその後を追った。

階段を上り切ると、そこは屋上で、あずまやとベンチが設置されていた。

シカマルはベンチに腰掛け、マガナミも座るようにと目で促す。

マガナミはぎこちない仕草で隣に腰を下ろした。

「ここ、オレの特等席」

シカマルは空を仰いでポツリと漏らす。

マガナミも倣って空を見上げた。

夕方の空は赤みがかっていて、太陽が地平に近い位置まで下りてきている。

オレンジ色の光の幕が、里を包むように宙を満たしていた。

こんな懐かしい赤、初めて見た。

「すごい」

「ああ。夕方の空もいいもんだな」

マガナミはチラリとシカマルを見遣る。

シカマルの視線は変わらず空へ向いていた。

マガナミは再び空に目を転じる。

大きな赤い太陽がゆらゆらと揺らめく。

塵が光を受けて瞬いている。

里全体が、何か特別な加護を受けた、とても神聖な場所に見えた。

特等席と彼は言う。

彼はいつも、ここから空を見上げているのだろうか。

「なあ」

シカマルの呼びかけにマガナミは横を向く。

今度はシカマルはこちらに向き直っていた。

マガナミは小さく首を傾げてみせる。

「長郷一族って知ってるか?」

マガナミはもう一度首を傾げる。

長郷一族…聞いたことはない。

というより、マガナミは井染一族と穂立見一族以外に知る一族はない。

あるとすれば、この里に来てから知り合った一族だけだ。

知らない、とマガナミは首を振る。

「そうか」

そう言って、シカマルは息を吐いた。

安堵の溜息のように聞こえた。

マガナミには何の質問なのか全くわからない。

しかし、シカマルはそれを説明するつもりはないようだった。

それからしばらくの間、彼は今の問答について吟味するかように、顎に手を当てたまま黙っていた。

少しして、シカマルがポツリと呟いた。

「そういや、今日いのとサクラが変なこと言ったらしいな」

マガナミは身体を緊張させる。

あの話だと、すぐにわかった。


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