18.こころの泉
(8/9)
「ここだ」
マガナミは内側に深く潜った意識を浮上させ、周囲を見渡す。
シカマルは建物の外階段に足を掛けていた。
マガナミが気付いたのを確認するとそのまま上っていく。
マガナミは小走りでその後を追った。
階段を上り切ると、そこは屋上で、あずまやとベンチが設置されていた。
シカマルはベンチに腰掛け、マガナミも座るようにと目で促す。
マガナミはぎこちない仕草で隣に腰を下ろした。
「ここ、オレの特等席」
シカマルは空を仰いでポツリと漏らす。
マガナミも倣って空を見上げた。
夕方の空は赤みがかっていて、太陽が地平に近い位置まで下りてきている。
オレンジ色の光の幕が、里を包むように宙を満たしていた。
こんな懐かしい赤、初めて見た。
「すごい」
「ああ。夕方の空もいいもんだな」
マガナミはチラリとシカマルを見遣る。
シカマルの視線は変わらず空へ向いていた。
マガナミは再び空に目を転じる。
大きな赤い太陽がゆらゆらと揺らめく。
塵が光を受けて瞬いている。
里全体が、何か特別な加護を受けた、とても神聖な場所に見えた。
特等席と彼は言う。
彼はいつも、ここから空を見上げているのだろうか。
「なあ」
シカマルの呼びかけにマガナミは横を向く。
今度はシカマルはこちらに向き直っていた。
マガナミは小さく首を傾げてみせる。
「長郷一族って知ってるか?」
マガナミはもう一度首を傾げる。
長郷一族…聞いたことはない。
というより、マガナミは井染一族と穂立見一族以外に知る一族はない。
あるとすれば、この里に来てから知り合った一族だけだ。
知らない、とマガナミは首を振る。
「そうか」
そう言って、シカマルは息を吐いた。
安堵の溜息のように聞こえた。
マガナミには何の質問なのか全くわからない。
しかし、シカマルはそれを説明するつもりはないようだった。
それからしばらくの間、彼は今の問答について吟味するかように、顎に手を当てたまま黙っていた。
少しして、シカマルがポツリと呟いた。
「そういや、今日いのとサクラが変なこと言ったらしいな」
マガナミは身体を緊張させる。
あの話だと、すぐにわかった。
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