18.こころの泉
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二人の顔を見る。
問い詰める様子ではない。
むしろ、心配そうな顔をしていた。
自分のためを思ってくれているのだと、マガナミは感じた。
そして、二人は同時に、この里の心配もしているのだ。
いや、里を心配すればこそ、この話を持ち出したと言った方が正しいだろう。
以前、何故よそ者を好き勝手に出歩かせているのかと、奈良家の人々が悪く言われていたのを思い出す。
そう、この里にとってのマガナミの立ち位置は正体不明の不審人物に他ならない。
それを奈良家の人々やいのやサクラがこうして庇ってくれて、よくしてくれるからこそ、穏やかに日々を過ごすことができるのだ。
それに甘えていることは重々承知していた。
彼らの誠意に報いなければならない。
けれど、マガナミがこの里で過ごしていられるのは、今の不安定な立場故なのだ。
正体がわからないから、彼らは見張りの意味も込めてマガナミを里に留め置いている。
それがはっきりしてしまえば、もうこの里に置く理由はなくなってしまうのだ。
そうして私は、井染の村に――帰らなければならない。
――嫌だ…!帰りたくない!
ううん。
帰る場所なんて最初からないのだ。
村に私の居場所なんて、ないのだから。
私に待つのは、村人たちからの暴力の恐怖、もしくは、村を失った絶望だけだ。
そうなのだ。
村がどうなったのか、未だにわからない。
知る術がないのだ。
いっそのこと、なくなっていればいい。
そうすれば、帰らなくて済む…ここにいられるかもしれない。
マガナミはハッと息を飲んだ。
自分の考えに寒気を覚える。
なんて恐ろしいことを。
「マガナミ?」
マガナミは肩を震わせた。
大きく瞳を揺らして我に返る。
自分の醜い考えを見透かされたのではないかと、後ろめたさに満ちた鼓動が胸を打った。
「あ…………」
動揺で二の句がつげない。
結局我が身が可愛いのだ。
やっぱり私は、忌み子、悪魔の子なんだ。
「大丈夫?」
サクラの声に小さく頷いて俯く。
「帰る場所なんて…ない…私には…」
やっとそれだけを言うと、それ以上口を開くことができなかった。
いのとサクラはわかった、と一言囁いて、深くは追及してこなかった。
また優しさに甘えてしまった。
マガナミは自分のずるさに嫌気が差した。
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