生きている意味

18.こころの泉


(2/9)


「カカシ先生ってば!」

いのに大声で怒鳴られて、カカシはようやく我に返った。

「ああ、ゴメンゴメン。…それで、その子いのの知り合い?」

いのはマガナミの肩に手を触れる。

マガナミはビクリと肩を震わせた。

いのは構わず口を開く。

「そうよ!この子はマガナミって言って、シカマルが助けた子なの」

カカシは思い当たる節があったのか、気の抜けた声を出した。

「ああ、この子が」

「なんだ、知ってたの」

「オレも会うのは初めてだな。話だけは聞いてるんだが。オレは猿飛アスマっつって、いのやシカマルの先生やってた。こっちは、はたけカカシだ。よろしくな」

アスマが自己紹介をしてカラッと笑う。

マガナミはオドオドと頭を下げた。

「で、マガナミは何してたんだ?」

「そういえばそうね。あんまり外は出歩かないって聞いてたけど?」

マガナミは買い物かごに視線を落とした。

「か、買い物」

ほう、とアスマが身じろぎする。

マガナミは驚いて身を縮めた。

アスマはそれに気づいてマガナミを見遣る。

マガナミは避けるように視線を伏せた。

そして、しまったと思う。

あからさまに視線を逸らしてしまった。

かなり失礼なことだ。

もしかしたら彼の気分を害してしまったかもしれない。

鼓動が激しく脈打つ。

けれど、彼の反応を確かめることは恐ろしくて出来ない。

もう逃げ出してしまいたい気持ちだった。

「そりゃ…」

アスマはそんなマガナミの気持ちを知ってか知らずしてか、続けて口を開く。

そして、右手を振り被った。

ぶつかった村の男は、大きく手を振り被って、私をぶった。

何度も、何度もぶった。

村の男と、アスマが重なる。

ぶたれる!

マガナミは全身を緊張させた。

しかし、こういう時に反応を見せてはいけない。

反応すればするほど、相手からの仕打ちがひどくなることをマガナミは経験として知っていた。

きつく歯を食いしばり、衝撃に備える。

けれど、想像していた痛みは走らなかった。

代わりに、頭に大きな手の感触があった。

マガナミは不思議に思って頭上を見上げる。

頭にはアスマの手が置かれていた。

それが何を意味するのかわからず、目を大きく瞬く。

「偉いな!」

アスマは柔和な笑みを浮かべて、手をわしわしと動かした。

マガナミはポカンと口を開けてなされるがままにされる。

「ちょっと先生!マガナミだって子どもじゃないんだから」

いのが軽い調子でアスマを諌めた。

それを耳の片隅で拾いながら、マガナミは込み上げてくる気持ちが何なのか考えていた。

お腹の辺りから胸までいっぱい、じんわりと温かな水が注がれてゆく、そんな感じ。

そこが水で満たされると、これが本来の正しい状態なのだとマガナミは直感的に悟った。

そして、そこが本来は泉で、その泉がずいぶん長い間枯れていたのだと、その時初めて気付いた。


(2/9)

- 123/232 -

[bookmark]



back

[ back to top ]

- ナノ -