生きている意味

03.目覚める少女


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――ったく、まいったな



シカマルは頭を掻いた。

その動作に少女がピクリと身体を震わせる。

ひとつ大きなため息をつくと、シカマルはゆっくりと、少女に話しかけた。

出来うる限り、穏やかな口調を心がける。

「ここは木ノ葉の里の病院だ。
今のところ危険はない。安心していーぜ。
オレは、奈良シカマル。
あんたをここに運んだのはオレだ。あんたの面倒を見るように頼まれてる。
それから、こっちは秋道チョウジ。オレの知り合いだ。大食らいだが、害はねーぜ」

「よろしく。君、ろくな食事を取ってなかったんだって?ダメだよ、そんなことじゃ。おいしいご飯をお腹いっぱい食べる、これが毎日を楽しく乗り切る秘訣だからね」

場を和ませるためなのか、はたまた大真面目なのかはわからないが、神妙な顔をしてチョウジが言った。

たぶん後者だな。

シカマルは思った。







少女は相変わらず硬い表情で黙ったままだ。

息が荒くなってきている。

ベッドに身体を起こしているだけでも負担なのだろう。

おまけに自分たちへの警戒感で身体を強張らせているので体力の消耗は早い。





どうやら、これ以上ここに居座ると、少女の症状が逆戻りしそうだ。

患者に無理をさせるとは何事か、と、看護師に怒られる自分を想像する。







そこで、もうひとつ、看護師に怒られる要素に思い至った。

少女はおそらく今、初めて目を覚ました。

ならば少女が目を覚ましたことをまだ看護師の誰も知らないはずだ。





ナースコールを押さなければ。





少女の枕元にある小さなボタンに目をやる。

しかし、ここから一歩でも足を踏み込めば、少女を刺激することになってしまうだろう。

シカマルは、半分諦めながら、ナースコールのボタンを指差した。

「なあ、枕元にボタンがあるだろ。それを押すと看護師があんたの体調を見に来てくれる。目が覚めたことも知らせてーし、押してくんねーか」

少女は見向きもしない。

一瞬暗く揺れた瞳は、少女が、更に自分の内側へ逃げ込んでしまったことを語った。





――だよな。





シカマルは、もう一度、今度は小さくため息をついてから、チョウジを促した。

「帰るぞ」

「え、いいの…?」

「これ以上オレらがいると、こいつ卒倒しちまう。看護師にも知らせねーと」

「…うん、そうだね」

「また来る。飯はしっかり食えよ」





少女のことを気にしているチョウジを連れて、個室を後にした。





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