16.いの、帰還
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いののやつ、完璧に遊んでるな。
シカマルは苦笑いを浮かべた。
端から相手を紅先生と想定して花束を作ったようだ。
花言葉で含みを持たせるとは、なんともいのらしい。
「そういえば私、昔これプレゼントしてもらったことあんのよねぇ」
いのがふと思い出したように呟いた。
「シオンの花を?」
チョウジが聞き返す。
「そ。まだ店番始めたばっかの頃、お客さんに。『出会いの記念に』ってね」
純粋にその言葉に引っ掛かったのか、話題が逸れたのが嬉しかったのか、アスマが茶々を入れた。
「なんだ、随分洒落たやつだな。男か?」
「ううん、女の人。髪をこんな感じでポニーテールに結んでてさ。その人見て、ポニーテールっていいなって思ったのよねぇ」
いのは自分の髪を触る。
「でも、この辺じゃ見ない人だった気がすんのよ」
もうあんまり覚えてないんだけど、と付け足した。
「ポニーテールの女の人といえば、ボクも小さい頃、友達とケンカになったのを助けてもらったことがあるよ。まあ、いのの言ってる人と同じ人かどうかは分からないけど」
チョウジがのんびりと言った。
――ね、君、名前は?
シカマルの脳裏を記憶の残滓が掠めた。
自分を見つめて微笑む女性。
笑みを浮かべていることはわかるが、顔はもやが掛かってよくわからない。
ゆるゆると吹く風に、高い位置で結ばれた髪が柔らかくなびいていた。
あれ…今のは…
「シカマル」
三人の視線に気づいて視線を上げた。
「どうしたんだ?」
「あ、いや、別に」
何故か少し動揺して口ごもる。
いのが、先ほどまでアスマに向けていた視線を今度はこちらに向けているのに気づいた。
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