16.いの、帰還
(5/7)
シカマルとチョウジは、フラフラと木ノ葉の里を散歩していた。
特に会話するでもなく、かといって気まずい思いをすることもなく、ただ目的もなく歩いて行く。
この気楽な沈黙は、チョウジとでなければ生まれない。
シカマルにとっては、いつもの場所で空を眺めている時と同じくらい寛げる時間である。
何よりシカマルを和ませるのは、チョウジも自分と同じ気持ちでいると確信できることだ。
周囲のざわめきを聞き流しながら、二人は無言のまま木ノ葉の道を行く。
木ノ葉茶通りを右に折れ、しばらく進むと、山中家が経営する花屋『やまなか花』が見えてきた。
店が近づいたところで、ちょうど中から見知った顔が出てくる。
一人はいのだ。
店番をしていたのだろう、やまなか花のエプロンをつけている。
そして、いのがニヤニヤしながら眺めているのはアスマだった。
右手で小さな花束を肩に担ぐように持っている。
どうやら今現在の二人の関係は店員と客のようだ。
アスマと花束。
世辞にも似合いの組み合わせとは言えない。
柄ではないことは本人も重々承知のはずで、その上でわざわざ買いに来る理由は一つしかない。
「オッス。いの、アスマ」
呼ばれた声に振り返った二人は、見事に対照的な表情を見せた。
いのは、いいところに来たと言わんばかりにほくそ笑み、アスマは、今来るなよと言わんばかりに顔をしかめる。
もちろん二人は、アスマには構わず二人の元に歩み寄った。
「やぁいの、店番?」
チョウジがニコニコと問い掛ける。
「そうよ!今接客中」
いのは意味ありげな視線をアスマに送る。
「アスマセンセ、買い物っスか?」
シカマルがわざとらしく会話を振ると、アスマはせわしなく視線を動かした。
「お前らには関係ねぇだろうが」
いのはニヤニヤとアスマを見上げた。
「その花、誰にあげるんですかぁ?」
いのの言葉にアスマはギョッとした顔をする。
「別に誰かにあげるとは限らねえだろ」
「紅先生にプレゼントするんでしょ」
何とか体勢を立て直そうと踏ん張っていたアスマは、チョウジのストレートな指摘に一気に顔を赤くした。
「なんだ…その…あれだ…いの、この花は何て言うんだ?」
アスマはあからさまに話題を逸らしにかかった。
しかし、いのはあえてその話題に乗る。
「カーネーションよ。先生知らないの?ちなみに白いカーネーションの花言葉は『純粋な愛』!」
思わず後ろにのけ反ったアスマは、大慌てで別の花を指差す。
「これは?」
「これはカスミソウ。先生ホントに何も知らないのねぇ。ちなみに花言葉は『無垢の愛』よ!」
「だー!これは!?」
「これはシオン。花言葉は『君を忘れない』。素敵でしょ!」
(5/7)
*←|→#
[bookmark]
←back
[ back to top ]