03.目覚める少女
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二人は彼女の病室である305号室に向かった。
「まだ目を覚ましてないのかな」
「かもな」
シカマルがドアの取っ手を握り、ゆっくりとスライドさせた。
広い空間に、ポツリとベッドが置かれた白い部屋。
ベッドはカーテンで覆われており、少女の様子は見えない。
しかし、そのベッドから、あえぐような荒い息が聞こえてきた。
二人は顔を見合わせ、容態が急変したのかと、慌ててベッドへ駆け寄った。
勢いよくカーテンを開けると、少女は半身を起していた。
肩で息をしている。
どうやら手術後で弱った身体を無理矢理に動かしたらしい。
「なんだ、目が覚めたんだね」
チョウジはほっとして肩を撫で下ろす。
「おいおい、命は取り止めたっつっても、そんな無理してりゃ、いつまた容態が悪くなるかわかんねーぜ」
シカマルもとりあえず安堵して少女に注意を促す。
だが、少女は目を見開いて固まってしまった。
今まではわからなかったが、その瞳は透明度の高い琥珀色だ。
少女はまだ力の入らないであろう両手で、ぎゅっと毛布を握り締める。
その身体が小刻みに震え出した。
行き場に迷うように揺れる瞳には、恐怖と警戒の念がまざまざと表れている。
突然現れた自分たちへの最初の反応は、「疑心」と「怯え」であるようだ。
――にしても、怯えすぎだろ。
怯えること自体はおかしな反応ではない。
目を覚ました時に見知らぬ人間がいれば、誰でも警戒するものだ。
だが、彼女の場合、それがあまりに顕著だった。
やはり、意識を失う前に何かあったのか。
「ああ、心配しないで。ぼくたちは君に危害を加えるようなことはしないよ」
チョウジが少女の動揺をなだめようと、優しく声をかける。
「あんた随分ひどい状態で倒れてたんだ。こんなに早く目が覚めるなんて、運がよかったな」
倒れていたというよりは、落ちてきたのだが、という言葉をシカマルは飲み込む。
敵意のないことを伝えても、少女は警戒を解こうとはしない。
それどころか、よりいっそう表情は硬くなり、瞳には拒絶の色さえ伺える。
まるで、森の中で突然人間に出会ってしまった小動物のようだ。
すぐにでもこの場を脱したいのに、恐怖に身体がすくみ、身動きが取れない。
今、何か物音を立てたら、その瞬間に脱兎のごとくこの場から逃げ出してしまうのではないだろうか。
非常に繊細な作業を要求されているような緊迫感が漂う。
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