16.いの、帰還
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「は?」
想定外のいのの反応に、シカマルは目を丸くした。
今、サワトに向かって誰だと言わなかったか。
今の発言はどういう意味なのだろうか。
とぼけただけのただの軽口なのか、暗に、あまりにやつれて顔色が悪いので別人に見えると言いたいだけなのか。
しかし、その様子は本当に戸惑っているようにも映る。
どう切り返したものかとシカマルが悩んでいると、サワトが笑みを漏らした。
「ひどいなぁ、いの。そりゃあ確かに、ボロボロのヨレヨレだけどさぁ。誰だはないだろう?」
いのは訝しげな顔でサワトに目を合わせる。
「そんなこと言われても…」
更に近寄って、しばし黙り込む。
シカマルが見つめ合う二人を微妙な心持ちで眺めていると、やがていのが「あ」と声を上げた。
「なんだ、サワトじゃない」
そのあまりにもあっけらかんとした物言いに、シカマルは思わず肩を落とした。
サワトもやれやれという顔をしている。
「気がついてもらえてよかったよ」
いのはかなり気まずそうに愛想笑いを浮かべた。
「アハハハ…」
それはそうだろう。
アカデミー時代からの付き合いで、しかも同じ第十班のメンバーだ。
いくらやつれて顔色が悪いからと言って、本来なら見分けがつかないわけがない。
「ほら、あたしも長期任務明けで疲れてるし、久しぶりだしさ!」
苦しすぎる言い訳である。
「…ま、まあいいじゃない!そんなことより、あんた大丈夫なの?」
「なんとかね。しばらくは入院だけどねぇ」
「まったく、何やったのよ」
二人がわだかまりなく会話するのを横目に、シカマルは先ほどのやり取りに気を取られていた。
いのは冗談抜きで気付いていなかったらしい。
まあ確かに、二人とも長い間里を離れていたし、その間に顔つきや体つきも変わったのかもしれない。
特にサワトは先だっての負傷が元でやせ細ってしまっている。
とっさに気づかなかったと言われれば納得できないことも…まあ、ないことはない。
しかし、シカマルの脳裏を過るものがある。
自分が長期任務から帰ったサワトと久々に出会った時も、すぐに彼とはわからなかった――
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