生きている意味

15.一歩近くに


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「どうしてるかと思って、様子を見に来たのよ」

「元気そうでよかったよ」

マガナミは大きく瞬きする。

状況を飲み込めていないのだろうということはよくわかった。

シカマルは補足をしようと口を開きかける。

「どうして?」

しかし、その前に、マガナミが問いを返した。

擦れるような細い声だったが、確かにマガナミが自分から話しかけたのである。

シカマルは目を瞠った。

自分から話しかけるのは母親くらいだったのに、今日はどうしたというのか。

それとも、この二人だからか?

今までの自分の態度があまりにまずかっただけなのだろうか。

少し複雑な心境になった。

サクラとチョウジは嬉しそうに顔を見合わせる。

「どうしてって、どういうこと?」

サクラが、いつもの彼女らしからぬ柔らかい口調で聞き返した。

マガナミはしばらくモジモジしていたが、おずおずと返事をする。

「どうして、私の様子を見に来たの?」

サクラは意を得たりと顔をほころばせた。

「あなたが心配だったからよ。大怪我してたし。でも体調よさそうでよかったわ。まだ痛むところ、ある?」

マガナミは思い切り首を横に振り回した。

大慌てのマガナミに、サクラはクスリと笑う。

「そう、よかった」

マガナミがサクラに視線を合わせると、サクラはもう一度微笑んだ。

「何してたの?」

チョウジが尋ねた。

マガナミは一瞬虚を突かれた表情を浮かべたが、ゆっくりと庭の方を向いて指さした。

「あれを見てたの」

呼応するように鹿威しの音が響く。

「へぇ、シカマルのうち鹿威しなんてあったんだ」

サクラがシカマルに話を振った。

シカマルは庭を見やって小さく笑う。

「まーな。こいつ、よっぽどアレが気に入ったらしくてよ。暇さえあればここでこうやって庭眺めてるぜ」

「そうなんだ。ボクも好きだな、この音。なんか落ち着くよね」

チョウジの言葉に、マガナミは遠慮がちに頷き返した。

「この間の抜けた音が、なんとなく和むのよねぇ」

サクラも口を挟む。

「いーんだぜ?別に風流人ぶらなくても」

「何よそれ」

シカマルの言いようにサクラが突っかかる。





会話は和やかに運んで行った。

マガナミも、ほとんど黙ってはいるものの、時々頷いたり短く返答したりしながら会話に加わっている。

その表情はいつもより柔らかく見えた。

取りとめのない話をしながら、穏やかな時間が流れた。





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