15.一歩近くに
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辞典を閉じて、大きく息を吐き出す。
該当しそうな一族は未だ見当たらない。
やはりそう簡単にはいかないようだ。
少し休憩しよう。
窓に視線をやると、外をチョウジとサクラが歩いていた。
二人もこちらに気づいた様子で手を振っている。
どうやらサクラが手招きしているようなので、シカマルは図書館を出た。
「珍しいな、お前らが一緒なんてよ」
「シカマルのこと探してたのよ」
「それで、図書館にいるんじゃないかってことになってさ」
シカマルは二人を見る。
「二人揃ってか?」
二人は首を縦に振った。
「あの子、マガナミさん。シカマルの家に居るんでしょ?どうしてるかと思って」
「ボクもお見舞いに行きたいと思ってるんだけど、まだマズいかなぁ?」
ここでは違う。
シカマルは改めて思った。
忙しい合間を縫って、気にかけてくれる人間がいる。
心配してくれる人間がいる。
疑念は存在する。
けど、ここには積極的にお前を傷つけようと思ってるやつはいねぇよ。
それに気付くいいきっかけになるのではないかと、シカマルは二人を家に連れていくことにした。
最近主張が強くなってきた太陽光も今日は柔らかく降り注ぎ、心が緩むような、ポカポカした陽気が木ノ葉を満たしていた。
今日もマガナミは縁側に座って庭を眺めている。
「おい、ちょっといいか」
シカマルは驚かせないようにそっと声をかけた。
が、しばらく待ってみても、マガナミは呼び掛けに気付かない。
もう一度名を呼んでみるも、一向にこちらを振り向く気配はなかった。
シカマルは頭を掻く。
「おい」
語気が少し強くなった。
ビクリと肩を震わせてマガナミがこちらを振り返る。
しまった、驚かせてしまったか。
しかしマガナミは不思議そうな視線を向けるのみで、特段怯えている様子はない。
ホッと肩を撫でおろし、親指で後ろを指し示した。
「客だ」
それを合図にサクラとチョウジが前に出てくる。
「やあ」
「こんにちは」
マガナミは二人の姿を認めて小さく口を開けた。
私、この人たち知ってる。
瞳がそう言っている。
躊躇いがちに頭を下げた。
落ち着いてるな。
シカマルはマガナミを観察する。
呆けてはいるが、強張っている様子はないし、呼吸も乱れていない。
最近慣れてきたとはいえもう少し動揺するものと思っていたが、杞憂だったようだ。
いい傾向だろう。
そんなマガナミに二人は笑みを返す。
庭の鹿威しが軽やかに石を叩いた。
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