迷い猫を捨てないで

06.何でこうなるの!


ペトラが胸の前で両の拳を握りしめた。

「いよいよですね」

「うん…ついに来た」

この数ヶ月間の激務の中で、イルメラはペトラの洗脳に成功していた。

元々動物好きのペトラだ、彼女を懐柔するのは簡単だった。

積極的に彼女に動物たちの世話をさせて情を移し、これが成功しなければこの子たちを捨ててこなければならないと耳元で囁く。

極めつけに、彼女の憧れ、リヴァイ兵長のためだと笑顔で肩を叩けば、もうイチコロだった。

もはや彼女はイルメラの右腕だった。

彼女とイルメラの違いといえば、リヴァイに対する態度くらいのものだ。

一方、男性陣はやつれにやつれていた。

まさに風に吹かれれば飛びそうな感じである。

オルオに至っては「燃えつきた…まっ白な灰に…」というフキダシを背中に背負って、抜け殻になっていた。

「みんな、今までよくやった!でも本当の勝負はここからだからね!」

はい!というペトラの歯切れのよい返事と、男性陣の呆然とした顔を確認して、イルメラは右手を左胸に当てた。

「心臓を捧げよ!」

兵士の悲しい性か、みな途端に身体を震わせて立ち上がる。

「ハッ!!」

イルメラは満面の笑みで頷いた。

「さっ!開店!!」



いらっしゃいませの掛け声とともに、ついにわんにゃんカフェはオープンした。

パレードさながらのビラ配りが功を奏したのか、オープンと同時に、手にビラを持った客たちが数多く訪れている。

店内に放した犬や猫たちと楽しそうに触れ合っていた。

感触は悪くない。

「わぁ!なんだかいい感じじゃないですか?」

隙を見てペトラが近寄ってきた。

イルメラも上機嫌で応じる。

「うん。やっぱり私の見込みは間違ってなかったわけだ!」

「オーダーも順調に入ってますよ。売上も好調です!」

と、グンタ。

「お客様二名様ご来店でーす!」

客引きのエルドが女を二人引っ掛けて戻ってくる。

「こりゃ大成功なんじゃないですか?」

すっかり生気を取り戻したオルオが、口元をだらしなく緩めて言った。

背後の厨房から怒鳴り声が聞こえる。

「オルオさん!早くお皿洗ってください!」

「早く行け、オルオ」

「………」

オルオが影をまとって厨房に戻っていくのを見届けて、イルメラは改めて辺りを見渡した。

店内には笑顔が溢れている。

子どもたちなどは、室内に大量の動物たちがいるのが物珍しいのか、目を輝かせて動物たちを追い回し、店内はまるで運動場のような様相を呈して――

ん?

「っておい!やめなさーいっ!!」

イルメラは大慌てで子どもたちを止めに入った。

しかし、子どもたちは何を勘違いしたのか更に興奮して、大声を上げて逃げ回る。

わーっ!

きゃーっ!!

店内には奇声が響き渡り、埃が散り、動物たちの毛が舞い上がった。

イルメラは疲労困憊した。

そして翌日、店内では閑古鳥が鳴いていた。

イルメラはわなないた。

「何でじゃー!!?」





(20140827)


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