その手をつかんで

16.昼休みの机の形


ようやく終業のチャイムが鳴り、昼休みになった。

私はマルコのおばさんに作ってもらったお弁当を抱えてもじもじしていた。

アニに声を掛けようかどうか迷っていたのだ。

かく言うアニは、さっさと自席に弁当を広げている。

一人で食べたいのかもしれない。

「おい、アニ」

ライナーの声に振り返ると、彼はアニに向かって手招きをしていた。

側でマルコとジャンが机を合わせている。

「ほら、ルーラも」

私もマルコに呼ばれる。

アニの方に目をやると、彼女と視線がかち合った。

アニは黙ったまま、私を窺うように見つめてくる。

私は、彼女の空色に吸い込まれそうになってドギマギした。

ただ見つめ合う、しばらくそんなやり取りをした後、彼女はひとつため息をついて、弁当をたたみ始めた。

来てくれるみたいだ。

「アニ、よかったの?」

「別にどっちでもいいんだよ」

「そっか。ならよかった」

「アニ、来週から部活見学始まるだろ。こいつらも連れてくことにした。お前も来いよ」

アニは小さく笑った。

「へえ。興味出た?」

「あ、うん。一度見てみようかなって」

「そう」

その横顔は少し嬉しそうに見える。

私もなんとなく嬉しくなって頬を緩めた。

「いつかアニがやってるところ見てみたいな」

「なら、入部するのが一番手っ取り早いがな」

ブラウンくんがニッと笑った。

「私、弓道部に入ろうと思ってたの。そっちも捨て難い」

「絶対に弓道部って言ってたもんな、ルーラは」

「そん時から比べればずいぶん揺らいでるな。引き込むなら今だぞ」

「ジャン、余計なこと言わないで」

「へーへー」

ブラウンくんの視線がふと泳いだ。

「他のやつらはどうするんだろうな」

私は首を傾げる。

「他のやつら?」

「ああ、実は昨日のデニーズは賑やかでな」

ああ、と私は頷いた。

隣のクラスのブラウンくんとアニの幼なじみとその友だち、総勢7名での会合になったとマルコとジャンが言っていたっけ。

「聞いた聞いた。いいなぁ、もう他のクラスに知り合いができるなんて」

「紹介してやる。後で覗きに行くか」

私は他の三人の顔を窺った。

が、三人はこれといった反応を見せない。

まるで私の返答を待っているみたいに。

その微妙な空気は、私の胸の中に薄暗い靄をかけた。

「うん、機会があった時でいいよ。まずはクラスに友達作らなくちゃ」

「そうか?」

「うん。それより、ブラウンくん、よくクラス委員なんて引き受けたね」

「まあ、嫌いじゃないしな。中学の時もやってた」

「お前らしいや」

ジャンが物知り顔で零すので、私は軽く揶揄する。

「昨日会ったばっかりのジャンが何を偉そうに」

ジャンの動きが一瞬止まる。

「…ま、それもそうだな」

予想外の素直な反応に、私は面喰ってしまった。

「ジャン、具合でも悪いの?」

「すげぇ元気だよ」

「ならいいけど」

マルコに目を向けると、マルコはただ微笑んだ。

「マルコも副委員だもんね。これは私だから言わせてもらうけど、マルコらしいというか」

「ライナーに視線で強制されたんだ」

マルコは苦笑した。

そうだったか?とブラウンくんは含み笑いだ。

「そういうあんただって、図書委員引き受けてたでしょ」

物好きだね、と半眼のアニに、私は笑う。

「図書委員は狙ってたの。図書室好きだし、いろいろ融通利くから」

「僕だから言うけど、これもルーラらしい」

「…もういいだろ、そのネタは」

ジャンがふてくされたので、みんなクスクスと笑った。

「だとしたらベルトルトと一緒かもな。あいつも毎年やってたろ、図書委員」

「ああ、そうだったね」

アニの一瞥を受けて、私は何故かそわそわし始めた。

「二人の幼なじみ?」

「ああ」

体の割に気が小さい。

アニがそう言っていた。

「お前ならすぐ打ち解けるだろ。あいつのことよろしく頼むぞ」

私は数度瞬きをして、目を細めた。

ブラウンくんは本当に面倒見が良くて兄貴肌なんだな。

「マルコたちにも頼んでたね。そんなに人見知りするの?」

ブラウンくんは私に目を合わせて笑んだ。

「お前も知ってのとおりだ」

私はキョトンとした。

「え?」

「あ?」

ブラウンくんも自分で言って驚いている。

「何言ってんだ、俺は?知ってるわけないよな」

「そ、そうだね」

首を捻るブラウンくんと私を他の三人は静かに眺めていた。





(20140110)


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