キミ的スピリット

01.小さいの


それは、104期訓練生たちが訓練を始めて2年を経過したある日のことだった。

「『小さいの』が出るらしいぞ」

コニーが瞳を爛々と輝かせて身を乗り出してきた。

「『小さいの』?なんだそりゃ?」

ジャンは煩そうに顔をしかめる。

マルコも隣で小さく首を傾げた。

「あれだよ、あれ。夜中にやりかけの仕事とかやっといてくれるっていう小人!」

「それって『コーボルト』のこと?」

アルミンが話に入ってきた。

「あん?コー…なんだって?」

「家に住みつく精のことだよ。昔おじいちゃんが言ってたんだ。非業の死を遂げた者の霊が特定の家に住みついて、毎日飲食を供えれば仕事の手助けをしてくれるんだけど、お供えを怠ると意地悪や邪魔をしてしのび笑いをもらすんだって」

「あー、そうそう、なんかそんなやつ!」

コニーは手を叩く。

「その『コーボルト』が出たっていうのか?」

マルコは問う。

「そうなんだよ!」

「おい、アルミン。そろそろ行くぞー」

エレンとミカサがやってきた。

「おーエレン!お前も当番だったんだろ?あれホントなのか!?」

「ん?ああ、オレたちがテーブル拭いてる間に食器が全部洗ってあった、あれか?」

「それそれ!」

「はぁ!?そんな都合のいい話があるかよ。誰かが洗ったんだろ」

ジャンが反射的に毒づく。

「いや。あの時、食堂にはもうオレたち当番しかいなかったし、みんな手分けしてテーブルを拭いてた。オレの位置からは全員見えてたから間違いねぇよ」

「おおっ!やっぱりホントなんだな!」

「お前らこんなとこで固まって何やってんだ」

ニヤニヤしながらライナーが歩いてきた。

悪だくみなら俺も混ぜろと目が言っている。

「ライナー、俺たちついてるぞ!」

「はぁ?何がだ?」

「これから皿洗いしなくて済むかもしんねぇ!」

嬉々として今までのやり取りを反復する。

「そりゃありがたい話だが…本当なのか?」

「ホントですよ!お皿だけじゃありません!他にも、トイレ掃除しようと思ったら既にピカピカになってたりとか、洗った洗濯物が干してあったりとかするらしいです!」

いつの間に加わっていたのか、サシャが興奮して鼻を鳴らした。

「あ、それあたしも経験あるぞ」

通りがかったユミルがひょいと顔を覗かせる。

「え?そうなの?」

隣のクリスタが大きな目を見開いた。

「訓練の後片付け、運び終わってないのに、全部カゴにおさまってた」

クリスタはふわりと笑う。

「へぇー、なんか素敵だね。守護霊がいるみたい」

「よし!決めた!」

コニーが拳を振り上げた。

「捜索隊を組織する!」

「捜索隊?」

「コーボルトがどんな奴か確かめるんだ!」

「いいですねコニー!妖精と言ったら、いたずら好きの食いしん坊と相場が決まっています!食糧庫の捜索も欠かせませんよ!」

「そうだな!よーしお前ら!今日の消灯後、食堂棟の前に集合だ!」

マルコが驚いて大きく瞬きする。

「僕らも行くの?」

「当ったり前だ!ここにいる奴、全員強制参加だからな!絶対来いよ!」

えぇーと苦笑するマルコを見て、アルミンも苦笑いを浮かべた。

そんな彼らの様子を奥のテーブルから白けた表情で眺めているのはアニだ。

「アニ、どうしたの?戻らないの?」

ベルトルトが不思議そうに声をかける。

「入口付近に溜まってる奴らがはけるのを待ってるの」

「ああ。何やってるんだろうね」

「さあね。興味もないよ」

取り付く島の無いアニに、ベルトルトはそれでもまだ何か言いたそうにしていたが、結局諦めて入口に向かった。

気付いたライナーが声をかける。

「ベルトルト、お前も行くか?」

「え、どこへ?」

「コーボルト探し」

「…何それ」





(20131109)


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