at the time of choice

10.please don't cheer me up


風に揺られる綿毛のように、ふわりふわりと意識が漂う。

浮遊感が気持ちいい。

どこだかわからない場所を奔放に漂っている。

身体が軽い。

ひときわ高く浮上したとき、耳が声を拾った。

――ずいぶん痩せたよね。

これはクリスタの声だろうか。

――飯は普通に食ってたけどなぁ。

コニーだ。

――吐いてたぜ。夜中。

これはユミル。

ユミル、知っていたのか。

――毎晩か?ちゃんと寝てんのか?こいつ。

ジャン。

そう、最近なかなか寝付けないから眠いのだ。

でも今なら深く眠れそうだった。

この機会にたくさん寝ておこう。

まだ目覚めるのは早い。

漂う意識は緩やかに下降していく。



次に目を覚ました時、視界に映ったのは金色のショートボブだった。

「アルミン?」

アルミンはホッと頬を緩める。

「よかった、気が付いたんだね」

「今、何時?」

「もうすぐ昼食だよ。気分はどう?」

「平気」

「よかった。でもまだ顔色が悪いよ。もう少し寝ていた方がいい」

ルーラは表情を曇らせた。

「恥ずかしい。自己管理も出来ないなんて、情けないって思ったでしょ?ネスさんもきっと使えない奴って思ってる。壁外調査も迫ってる大事な時期なのに…調査兵失格だよ。最低だ…」

アルミンは宥めるように笑みを浮かべる。

「そう思うなら、早く治さなくちゃ。そうだろ?」

ルーラは小さく笑みを返す。

「うん。アルミンの言うとおり」

「今日は午後の参加は認めないってさ。ゆっくり休みなよ」

「そうする。ごめんね、気ぃ遣わせて」

「気なんか遣ってないよ。壁外調査は一人でも多くの人間が必要なんだ。ルーラにもちゃんと参加してもらわなくちゃ」

「うん。ありがとう」

アルミンは返事の代わりに微笑んだ。

が、その顔はすぐに憂いを帯びる。

「ねえ、ライナーとベルトルトと何かあったの?」

ルーラの心臓が大きく跳ねた。

「どうして?」

「いや、最近全然一緒にいないからさ」

「そんなことないよ。たまたまじゃないかな」

「そう…ならいいんだ。でも…」

「…でも?」

「ルーラが元気がなくなった時期と重なる気がして」

気のせいだよ。

ルーラはやっとのことでそう言うと、無理矢理笑ってみせた。

ああ、今のは失敗したかもしれない。



医務室の戸が開いた。

二人は反射的に振り返る。

入ってきたのはライナーだった。

パンとスープの乗ったトレイを2セット持っている。

「目ぇ覚めたのか。飯持ってきた。アルミン、お前も食堂行ってこい」

「あ、うん…」

アルミンはルーラをチラリと見やる。

心配そうな表情をしていた。

ルーラは笑って頷いて見せる。

「行ってきて、アルミン。ね?」

アルミンはまだ何か言いたそうな顔をしていたが、結局首を振った。

「わかった。ルーラ、お大事にね」

「ありがとう」



(20131008)


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