(Ich liebe dich)

伝わってるの?


それとも 僕がその気になってるだけなの?















「神乃木さん、今帰りましたよー」


夕方、すっかり辺りが真っ暗になったころ、仕事からあがった成歩堂はこじんまりした自宅のアパートの部屋のドアを開けた。中に入れば柔らかな明かりが成歩堂を包む。
しかし返ってきたのは沈黙のみで、合鍵で先に返ってきている筈の彼の声はいくら経っても返ってこなくて、はぁ…と疲れからではないため息を吐き出すと靴を脱いでリビングに向かった。





「神乃木さーん…?」



リビングに入ると彼はいた。
…いや、正しく言い換えるならばソファーに寝そべって寝ていた。


(…全く、もう)


恐らく、早く来て待ってる間に寝てしまったのだろう。
疲れているのかもしれないしそっとしておこうと、自室から持ってきた掛け布団を優しく被せてあげた。
成歩堂の前だからなのか、いつも付けているマスクはテーブルに置いてあり、傍らには飲みかけの冷めたコーヒー、手には何やら書類が握られている。


それらを順々に見ていると、次に目が止まったのは彼の銀髪。


部屋の温かな明かりを吸ってぼんやり光を放つそれ。
吸い寄せられるように成歩堂は近付き、すっと指でそれに触れた。


(…綺麗…なんて…言ったら…


貴方はどんな顔をするのかな…)



この銀の髪は きっと彼にとっての戒めの証に違いない。


こうして染めずにいるのは 復讐への恨みや千尋を忘れないためなのではないだろうか。






それを考えたら、急に胸が締め付けられた。彼の中にまだ彼女の面影が深く刻まれてるという事実が深く突き刺さる。

彼にとって千尋は特別な存在だった。
恋人だったのだから…当たり前ではないか。

反対に自分は、彼にとっての恨むべき相手だった人間で。




初めて成歩堂に繋がりを持たせたのは神乃木からだった。
その強引な連れ込みに、ほぼなし崩し的な勢いで身体の関係を持って、今に至っている。…ようなものだ。



だから付き合っている今でも、愛してるだとか好きだとか そんな言葉さえも自分から言うのが怖い。
心に宿された神乃木への想いが、尚それをかきたたせていた。




彼の口から囁かれる「愛」を聞くのが怖い。


「神乃木さん…」




形の良い唇に自分のをそっ、と重ねる。




彼の囁く愛は 自分に向けられているのか、それとも…遠い千尋の面影と重ねられて囁かれているものなのか。



そんな思いに囚われていた成歩堂は突然頭をぐいっと押さえ付けられ、咄嗟に頭が働かず思考は瞬時に停止した。



「…っ!?」


重ねられた唇は名残惜しげにふっと離される。


「…寝込みを狙うたぁ、無粋なマネするじゃねえか?」


「な…」



見開いた目に映ったのは 色素の薄い瞳が柔らかく細められている様で。
絡み合う視線に、またも胸が痛いほどに締め付けられて、成歩堂は眉根をきゅっと寄せて 泣きそうな瞳で神乃木を見つめた。


神乃木は恐らく見えていないのだろう、しかしその瞳に成歩堂をしっかり捉えたまま、彼の鼻に唇を寄せて苦笑した。


「…おいおい、何て顔してんだい」


「…!っ…な」


「クッ…目は見えなくても、他の部分は発達してるってことさ。コネコちゃん」


神乃木は安心しろ と言うように口元に弧を描いた。それに成歩堂はただ目を丸くするしかない。


「なにがアンタにそんな顔をさせてるかなんて考えるのは、裁判で勝つより容易い。





…考えてたんだろ?千尋のこと」



傷口をなぞるかのように優しく促されて、じわりと網膜の奥が熱くなる。
頬をなぞるように滑っていく温かなもの。


気づけばただただ想いだけがひとりでに流れ出していた。



「……っ…ごめ…な…さ…い…



僕……僕…は…」


嗚咽混じりになる声を飲み込めば、また新たに涙がぼろぼろと零れてはただ落ちていく。




怖い?違う。
自分は彼と想い合い繋がるのが怖かったわけじゃない。


千尋や過去を言い訳にして、彼の想いから目を逸らそうとしていただけじゃないのか。


向き合うことから逃げてたんじゃないのか。


「…よく聞け…まるほどう。…いや、龍一。」


神乃木は真っ直ぐに成歩堂の瞳を見据えると 静かに言葉を紡いだ。
ひくりと成歩堂の喉が震える。


「確かに…千尋のことは好きだった。
愛していた…。
この気持ちは今も昔も変わらず嘘も偽りもねぇ。この身に叩きつけられた痛みと一緒に何もかも忘れちゃいけねぇもんだ。




…けどな」


そこで一呼吸置いて、成歩堂の髪を擽るように触れる。その手には愛しささえ込められているように思えた。



「それがアンタを想ってない理由…って言いきるには証拠が不十分すぎるぜ?



…確かに俺達の繋がりは強引なものだった。
いや、俺から強引にアンタに繋がりを持たせた。


憎かったさ…
憎しみを抱いて検事にまでなって…。





だが…アンタという人間を知って、抱いて


…俺は気付いた。」



色素の薄い瞳が翳りを見せる。



「守れなかった自分への苛立ちや辛さを、なにもかもを…アンタに押し付けてただけだった…。


俺は……千尋を亡くして、自分一人のうのうと生きている、そのことに理由を作りたかっただけなんだと…。」



「神乃木…さん…」


耳に響いた自分の声は笑ってしまうくらい情けなく震えていた。


「…。
龍一…好きだ。



千尋の代わりなんかじゃねえ。
成歩堂龍一という一人の人間を…俺は愛したい」



しっかりとした口調に


それでいて力強さのこもった響に、今度は違う涙が止まらなくなった。





(…あぁ…僕はなんて馬鹿だったんだろう)




自分だけが想っているなんて なんて馬鹿なことを。




彼はずっと自分を 見ていてくれていたのに。




「神乃木さんっ…


僕も…っ好きです…ずっと…



ずっと……好きです…っ…」




あぁ もう止まらない。
零れ出る想いは留まることを知らずにとめどなく口から滑り落ちていく。
さっきまであんなに空っぽだった胸の中は、彼の言葉で今はこんなに満たされて、温かな気持ちでいっぱいになっていた。



「…ああ…俺も、」


ぐい、とソファーに引っ張られて体制を崩した成歩堂を神乃木は押し倒すと 綺麗すぎる程の笑みを浮かべて 覆い被さってまた口付けを落として笑んだ。





「 愛してるぜ 」






落ちてきた口付けを享受して、甘く激しいものに変わっていくそれに成歩堂はゆっくり目を閉じる。



当たり前の体温に、どうしようもなく安心を覚えて…暗がりを怖がる子供みたいに彼にしっかりとすがり付いて。
夢中で彼の名前を呼んで。


甘く濡れた思考へと沈んでいくのに、そう時間はかからなかった。

















―その後―




(クッ…このコネコちゃんをもし不幸になんてしたら、千尋にこっぴどく叱られるだろうしな…)


(…?神乃木さん?)










***************




うわあぁあああああ難しいなアァアアアゴドナル難しいなアァアアアアァアアア
とりあえず二人はもだもだしながらぎこちなくなりながらもくっついてけばいいよ…!!!
題名はドイツ語で 愛してる って意味です!!
ゴドーさんがキザなんで題名もキザにきめてみました!!(ん?)


とりあえず遅くなったけど塩味様 誕生日おめでとうございました!!


× ×


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