苦いのに





響也の執務室にて




「オデコくん、お茶でもしてくかい?」



王泥喜が資料を纏めていたら、少し上から声が降ってきて反射的に顔を上げた。
今まで裁判の案件の話をしていて、今丁度終わったのだ。


今日響也の執務室に足を運んだのは仕事の要件でだけだったのだが、ひととおり話して後は帰るだけだった。そのため王泥喜は、はい。と一つ返事を返した。

それに響也はにこりと笑みを返してソファーから立ち上がると コーヒーがいいか紅茶がいいか訪ねてきたのでコーヒーで、と言えば彼はいかにも意外だというような顔をして見せた。


「へえ、オデコくんってコーヒー派なんだね」

「…意外ですか?」


「うん、僕勝手に紅茶派なのかと思ってた」


「…んー、まぁ、別に驚かれるのは今が初めてじゃないですけどね」


王泥喜は自分でコンプレックスに思うくらいに童顔だと自覚している。
一番ひどい時は中学生に間違われたこともある。あんまりだ。


見た目が原因なのか大体はコーヒー派だと言うと驚かれるのが常だがもう慣れた。
別に紅茶が嫌いとかそういう訳ではないが どちらかといえばコーヒー派なのである。



「あ、ごめんね。悪気は無かったんだけど…」

思案している様子の王泥喜に 響也はコーヒーを注ぐ手を止めて眉根を下げて謝罪してきたが 王泥喜はいいですよ、と苦笑した。


「怒ってないですよ。それに慣れましたから」

そう言えばやはり彼はばつが悪そうに笑った。


「…うん。

…オデコくん砂糖とミルクはいる?」


「あ、砂糖だけで」


「はいはい」



カチャカチャと食器の軽くぶつかる音がして 響也が銀のトレイにコーヒーを乗せて持ってきてくれた。一つは響也の、もう一つは王泥喜のだ。



「…響也さんは、コーヒーお好きなんですか?」


「ん?いや…その時の気分によるかなぁ。結構そーゆーのバラバラなんだよね僕」


と溢して優雅なしぐさでスプーンをかき混ぜる響也。
全く、そんな何気ないワンシーンさえも一つの絵に見えるくらいで、ついつい見とれてしまいながらも王泥喜は そうなんですか と返した。


「…ん、オデコくんは?」


「俺ですか?…うぅん、」


コーヒーを一口口に含んで、ティーカップに注がれた漆黒を見詰めた。



…辛いときとか、なんか落ち込んだ時とか…そういうときに飲むとまた頑張ろうって思えるんですよね。これ飲むと。

…ふと、コーヒーって人みたいだなって思えるときがあるんです」


「人?」


「コーヒーって、元が苦いじゃないですか。真っ暗で真っ黒。…けれど、砂糖とか、ミルクとか入れたら全く違う顔が見えてくる。」

ね?と純粋な光を灯した鳶色の瞳と共に王泥喜が小首を傾げた。



(…もし、僕がコーヒーだとしたら)


王泥喜はミルクみたいな存在だなぁ、なんて響也は考えた。


元の苦味を残しながらも、優しくて 柔らかな色にしてくれる。


自分に厳しくて信念は曲げず、けれど人には優しくて…共にいるだけで心を和ませてくれる彼に。
王泥喜に似ている。




「もし僕がコーヒーなら…オデコくんはミルクだよね」


「…ちょっと、なに臭いこと言ってんですか」


頬杖をつきながらポツリと溢した響也に、呆れたように溢しながらも王泥喜の口元は緩く弧を描いていた。




「でも」



「ん?」



「…。
やっぱり止めます」


「えぇ!?気になるじゃないか!言ってくれよ!」


「嫌です」



刹那欲しがってた玩具をとられた子供のような顔をした響也だが、あるものにハッとした。
…何故なら王泥喜の顔と耳がほんのり朱に染まっていたのが目に映ったから。
響也はにこりとした笑みへ表情を変えた。


「…うん」


(…だって言えるわけないじゃないか)



響也と同じことを考えていたなんて。





王泥喜は少し熱を持った顔を誤魔化すように、またコーヒーに口をつける。













それは やっぱり少しだけほろ苦くて






ほんの少し甘かった。















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