Liebe2


――…


そして
ライブ終了が近づいたころ、響也がマイクで会場の客に向かって 「実は、皆に話があるんだ」
と告げた。
すると会場は水を打ったように しん…と静まりかえる。
響也はゆっくりと周りを見渡してから口を開いた。




「今回は…ライブに来てくれて、本当に…ありがとう。凄く、言葉では言い表せないくらい嬉しいよ。





…実はね…


恥ずかしい話、ここに立つまでは不安だったんだ。
ここにもう一度立って…また"牙琉響也"、としてみんなに認めて貰えるのか、って」


綺麗な青い瞳に憂いを滲ませて 響也は静かに続ける。


「兄貴が逮捕されて、
…僕は初めて牙琉の名前の大きさを知ったんだ。
改めて、これが罪の重さなんだ…って…感じさせられた…。


活動を停止して、何度も音楽を辞めてしまおうかと思った…
それが償いになるかと考えさえした…」



ぽつり…ぽつりと、自分の中の思いを語る響也。
王泥喜は、その表情や声に胸が締め付けられるような思いで、ただそれに耳を傾けていた。


(…っ…)




「……でも…」


キッと響也は顔を上げる。


「…それは違うんだって、そう気づいたんだ。

いや…ある人に気づかされたんだよ。



好きな音楽を捨ててはいけないって…


こんな僕にも
まだまだ…歌を通してみんなに何かを伝えられることがあるはずだって…」



響也はライトの下で 微笑む。



「だから…今、ありのままの牙琉響也を、今聴いて欲しいんだ。



ある大切な人に…。
ここにいる皆に…。」







クラシックギターとピアノのメロディが流れ始め、耳を優しく叩く。



それに乗せて 響也が声を重ねた。
とても 温かくて…綺麗なテノール…。
今までの彼の曲とは全く雰囲気が違っていた。


優しくて


切なくて


でも包み込むように温かくて


魂を揺さぶられるような…





「………ガリューさん…



一年の間に…変わりましたよね」


隣でぽつりと溢したみぬきの声を、王泥喜は聞き逃すことなく。


「そう…だね…。」


「…みぬき…今までの曲もガリューさんも大好きです。



だけど…この曲や…今のガリューさんは…もっと好きです」




王泥喜は無言で頷いて返す。
熱烈なファンであるみぬきでなくとも、彼の変化に気づくだろう。
そのくらい…今の彼の纏う雰囲気は以前と全く違っている。


(俺も…好きですよ…。


響也さん)




出会ってから初めの頃は 自分と彼があまりにも何もかもが正反対すぎて、なんだコイツは。とよく思ったものだ。


検事の癖に無駄に派手だし、よく物は無くすし、すぐ拗ねるし、変なアダ名で呼ぶし。
その癖容姿に恵まれてて、仕事も出来て…悩みとは全く無縁な人物かと思っていた。


けれど後から段々と知った。
それは彼が徐々に身に付けていったことだということ。


本当はとても繊細で…弱い人間だということ。


派手な見た目も、趣味でそうしてるだけでなく この法曹界で己を守るための鎧なのだろうと。









そうだ。



きっと自分は


彼を 牙琉響也 という人間に惹かれたのだ。


容姿も笑顔も優しい声も 全部全部…響也だから好きなのだ。






(……俺は…あなたを好きになれて…良かった)


ねえ…響也さん。




ステージという遠い場所にいる彼に語り掛けた。




俺は知ってます…
貴方がどんな思いで戻ってきたのか





陰でどれだけ涙を流したのか






だから


あなたの歌にのせて言葉を紡ぐ度に辛くて…。
辛くて苦しくて仕方がない。




メロディや声…曲の全体から滲み出る本当の牙琉響也に 瞳の奥がじんと熱くなって…温かい感覚が頬を滑り落ちていく。
みぬきに見られてはいけないと、手の甲で何度も何度も拭うけれど それ は止まってなどくれなくて。



「…っ…く…」






嗚咽が洩れないように必死で堪えながら 大きく息を吸う。
けれど上手く息が出来なくて、口元を押さえて…涙で霞む目をステージに向け続ける。



映画を見てもドラマを見ても泣いたことがなかったのに、彼の歌で涙を流したのは、きっと…彼を愛しているから。




急に
彼に触れたくてたまらなくなった。
しかし、触れたいと思ってもステージの上の彼はあまりにも遠く。


今すぐに その大きな腕に抱かれたい。
いつもみたいに悪戯っぽく笑いながら 名前を呼んでほしい。
そうすれば、胸の痛みも、この涙も止まるような気がしたから。
彼になら、止められる気がしたから。







…そのまま 流れる涙も途中からそのままに、暫く曲に耳を傾けて泣いていた気がする。
曲の終わりに気付いたのは 拍手の嵐が自分を包みはじめてからだった。
















…―――


ライブ終了後、みぬきに 先に帰っていてくれるように言って別れを告げてから 響也にメールをするために携帯を開いた。
ライブが終わってから、みぬきに目が赤くなっていたら指摘されるのではと杞憂していたのだが、どうやらそうでもなかったらしく安心する。

幸い泣いたとこは見られていなかったようで内心少し安心ながら、ふぅ、と人の気配がすっかり消えたライブハウスの片隅でため息をついていると 肩をくっ、と掴まれた。
いきなりで吃驚して心臓が跳ねるのと同時に反射的にばっと後ろを振り返る。
それとともに身体がぐいんと引き寄せられて、心地よい体温と甘い香りの中に沈んだ。


「がりゅ…響也さん…」


「今日は…ありがとう。…法介」


「ぁ…いえ…その…。お、お疲れ様…でした…?」


「ふふっ…なんで疑問系なのさ」


くすくす笑いながら頭を撫でてくれる響也。その手があまりにも優しくて、鼓動がかきみだされる。

まるで、体全体が心臓になってしまったようにどきどきと脈打って。
いつもなら、いつもなら照れ隠しで突っぱねるのに、身体が思うように動かない。
彼を、彼の香りを近くに感じたら、もう意思とは関係なく、腕が動いていて。




「……法、介…?」


ぎゅっと…彼のジャケットを掴む手に力が入る。



だめだ…



もう、意思だけでは抑えきれない。




誰かに見られたらどうしようとか…もうどうでもいい…。




彼が…どうしようもないくらい、好きだ。
好きで、好きで…苦しい。







「きょ…や、さん…」


胸に埋めていた顔を、ゆっくり響也を見上げて発した声は、涙声になっていて…知らず知らずにまた目がじんわり熱くなって涙がぼろぼろこぼれ落ちる。…響也はそれにスカイブルーの瞳をこぼれんばかりに丸くし、眉根を下げた。


「!法介…っ?どうしたんだい…」


「…っ



………きょ…やさ……っ」


「…ん?」


甘い、テノールが耳を叩く。



「お、れっ……



…きょ…やさん、がすき…です……」


「!…うん」


「……今日の…っ…ライブ、も…歌…も凄く良くて…」


「…うん」


「けど……きょ、やさんが…また歌ってるのが…嬉しいのに……っ…俺…





きょ、やさん…が…遠くに行っちゃう、みたいで…怖くて…苦しくて…」




女々しいのは分かっている。
男が何を言ってるんだとも思う。
そんなの、自分がよくわかっている…


嫌われたら どうしよう。




そう考えたら、胸中を不安が覆い始めて。



怖い…


怖い…怖い…


もう、一人になりたくない…






しかしそんな不安は 温かい体温によって遮られた。



「法介…泣かないで」



ぎゅっと…王泥喜を抱き締めて響也は 子供をあやすように背中をゆっくり擦りながら耳元で囁く。
それは、彼が泣いたあの日…王泥喜が響也にしてあげたことと同じだった。






「…っ…」


「僕は…うぅん。




…僕も法介が好きだよ、大好き。



だから…遠くになんて行かないよ。」



彼の言葉ひとつひとつが 熱を帯びて胸に沁みる。


涙は流れる事を止めて、水の膜だけが 瞳を揺らした。


「きょ、やさん…」


「法介が居たから…僕は戻ってこれた…

また歌いたいと思えたんだ…」





ありがとう、法介。




唇に落とされた熱が柔らかく溶けて、重なる。


顔にかかる金糸がくすぐったいとか、近くに香りや温度を感じるだけで幸せだとか…
全ては 響也だから特別になる。




反応しない腕輪。
だから余計に彼に依存してしまうし、期待だってする。期待しない方がおかしいと思う。

身を彼に委ねて 長い口づけを享受する。
恥ずかしくて目なんて開けられないけど それだけではなくて。
おとぎ話が夢のように、自分の幸せも、目を開けたら終わりになってしまうような錯覚に囚われてしまって…どうしようもなく怖くなるから。




「……法介」
長い口づけの後 声に釣られるように瞳を開けたら、穏やかなスカイブルーが見下ろしていた。


「……一緒に…帰ろっか」


降ってきた声と握られた手。


「…ぁ、あの…でも今日打ち上げとかは…?」

恐る恐る訊ねたら、響也は小首を傾げて。


「断ってきちゃった。


…あんな可愛い笑顔を返してくれたお姫様を放っておけるほど、王子サマには余裕はないもんでね」


キザなセリフの中に聞き逃せない言葉を見つけて王泥喜は目を丸くして赤面した。


「…!ば…ばれてたんですか…」


「当たり前じゃないか、あれは…君に、向けたんだから」


さっきとはうって変わって少し赤くなりながらしどろもどろに告げる響也に おかしくなって吹き出したら、今度は彼が真っ赤に染まった。


「…ありがとう、響也さん」


「…!ほうす「さ、帰りましょうかっ。」


言ってみたら案外照れくさくって、隠すように得意な大声でかきけして響也の手を取り歩き出す。









今日の夕飯は少し奮発しようかな…なんて考えながら。





















(法介!!!もう一回言っておくれよ!)


(い、嫌ですっ!)


(えーーっ)


(…っ、夕飯抜きにしますよ?)


(…!す、スミマセン)






***************


げろ甘い('、3_ヽ)_
なんだこれは…
しかもかなりテンポ悪いし悪いし悪いし悪いし…(つまり悪い)
ライブシーンは単なる趣味ですwww
逆裁映画からして、CG技術はかなり進歩してると見たので!しかもその7年後なら尚更可能ではないかと考えた結果がこちら…


なかなか趣味に走っててすみません!タイトルのLiebeはドイツ語で愛という意味です。ではではここまで読んでくださりありがとうございました!!





物好きさんのための自己満歌詞↓


恋はアトロキニーネ

love low




 

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