「タケミカヅチ」


ああ
なんて優しい声


「タケミカヅチ、また裾がほつれているわ。縫いましょう」


ああ、また…

あなたは優しい。
優し過ぎる。


最高神であり、尊いあなたが、わざわざ汚れた死人の血から生まれた、兵器である自分に世話など焼く必要などないのに。


そう思っていても口に出来ないのは、彼女の悲しむ顔を見たくないから。


「いいえ、このくらい…自分で出来ますから…」


天照様に世話をかけさせたくなくて、無理に嘘をつく。
しかし彼女は途端に眉尻を下げた。


「ダメよ、貴方が不器用なの知ってるんだから…


…それとも、迷惑…だった?」



しゅんとした彼女の声にハッとする。
泣きそうな、困惑したような顔をされたら、流石の自分もお手上げで。


「い、いえ!迷惑なんて!
むしろ……う、嬉しい、です」


「…ほんと?」


「はい」


「よかった…ありがとうタケミカヅチ」


安心したような響きをもった可憐な声に、花が咲くような笑顔。
それを向けられるだけで、胸の奥がじんわりと熱くなって。

その瞬間…自分は本当に彼女に弱いのだと実感してしまう。軍神である自分がどうしても頭の上がらない相手…それが彼女なのだから。


「…いつも…すみません」


「いいのよいいのよ。

…私は好きでやってるんだから、あなたは気にしないで」


「…はい」





…そうだ






天照様はこういう方なのだ。

優しくて、強くて、明るくて、どこまでも健気でかわいらしいお方。



きっと 兵器だとか、部下だとか、彼女の中ではそういうことは関係ないんだろう。







兵器でも構わない。
彼女の側に居られるのなら。



自分は永劫、彼女だけの兵器であり、剣になり、盾になると。
そう、仕える時に誓ったから。




その笑顔を守る為ならこの身など惜しくはないとさえ考えている。







けれど近頃は
それだけでは心が満たされなくなってきている自分に、薄々感じては困惑さえ覚えるようになった。


ふいにその細く小さな身体を抱き寄せたくなる。
ずっと自分だけの側に居てほしいと思ってしまう。

こんな感情を抱くのは、いけないことだと分かっているけれど、…それでも…。










「…!タケミカヅチ…?」


「すみません…。暫く…こうしていても…いいですか…」


どうしたらいいのか分からなくて、頭の中が訳の分からない気持ちでいっぱいになって…たまらずに抱き寄せたら、彼女の香りが鼻を掠めて、目を細めた。
天照様は最初は驚いたようだったが、すぐに此方に腕を回して、「いいわよ」と優しく言ってくれた。









自分は兵器だ。


高天原の最終兵器。



けれど

心までは


兵器になどなれるはずもない


彼女が笑う度 言葉をくれる度
自分の心は靡いてしまう
貴女が上の立場なのだと忘れてしまいそうになる。
これではいけないのに、平静を保てなくなりそうな自分を、どうしたらいいか分からなくて。





しかし、此方の心中を読んだように、背中を優しくさすってくれる天照様。


「……。



タケミカズチ、何かあったの?」


「…いえ…俺は…大丈夫です…」


「…。ならいいのだけど…。あまり無理はしないでね…?」


「…はい…」



静かに返して、瞳を伏せる。













あぁ…天照様

どうか…





どうか…こんな俺を許してください







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