※神武が諏訪の家に遊びに来た話。微腐要素あり、注意
ある日、神武が諏訪の家を訪ねに行ったときのこと…。
もう毎度の事だが、ちょくちょく諏訪の家には遊びに来ている。彼も気がすんだら帰れよ。とは言うが追い出された事はない。
彼は口が悪いけど神武は結構気に入ってたりする。それに感情豊かで面白い。
自分の周りは冷静で真面目な奴が多いから尚更。
神武が何時もの調子で、引き戸を開けようと手を伸ばした…そのとき。
「すわー、遊びに…『…や、痛ぇッ…』
きたぞ、と言おうとした神武の耳に、聞きなれた声が鼓膜を震わせて
手をピタリと止めた。
それが、見知った人の声だったから。
「(…すわ?)」
間違いない。今の声は諏訪だ。
…まさか、あの諏訪に限って負けるとは思わないが、悪い輩に襲われているのかと胸から小刀を取り出し、神経を研ぎ澄ます。
伊達に自分は若と呼ばれてはいない。
大体いつも敵を倒すのは久米ちゃんとかの役割だけど、こっちだって雑魚を倒すくらいの腕は持ちあわせてるつもりだ。
小刀を手に、神武はそぅっと戸に耳を当てた。
…すると…
『おい、じっとしてろよ』
「(…え…?)」
中から聞こえてきた違う声に、神武は小刀を下ろした。
「(…この声、って…)」
彼は思わず目を丸くした。
自分の耳が聞き間違えてないとすれば…
この声は…
『…無理、だ…て、かしま、ぁ…』
「(やっぱり…!?)」
間違いない。
戸の向こうにいるのは鹿島だ。
しかし一体何をしているのだろう?痛い、とか無理とか…取っ組み合いだろうか。
それともまた恒例の諏訪いじめだろうか。
それにしては物音はしないし。
何より…、…諏訪の声が2つに当てはまるような物ではない。取っ組み合いや喧嘩なら、もっと煩くていいはず…なのだが。
なんというか、聞こえてくる諏訪の声は…艶っぽいのだ。
本当に何をしてるのか気になる…。
悶々と考えていたら気になってきて、神武の好奇心に火がついてしまった。
「(…すこしだけ…、盗み聞きしちゃお)」
久米ちゃんに怒られそうだけど、すこしならいいよね、と小刀を胸にしまうと神武は耳をすませた。
『ぁ、あ…、いッ…そこ…!
…は…はぁ、は…もっ、と優し…っしろよ』
―え…え??
『ここがいいのか…諏訪?』
聞こえてきたのは熱を孕んだ鹿島、諏訪の声と、何やら怪しい台詞。
神武が動揺していると、次の瞬間には諏訪の悲鳴に近い声が。
『ぃ…た、ァ…ぁあ!!か…っま…
も…む、り…』
『だめだ。
まだ…いけるだろ?』
―え、えぇえええ!!?
何故か聞いている神武の方が顔が熱くなり、胸がどきどきしてきてしまうような言葉の数々。
まさか二人は…。まさか、まさか。
神武の頭の中で一つの結論が出されたが、認めたくはなかった。
多分今自分はとてつもない阿呆面をしているだろう。
だってあり得ない。
今は昼間だぞ?
中の様子からして諏訪は嫌がってる風。だとしたら鹿島が無理矢理に…??
それを考えたら、ますますあり得ない。
鹿島、普段人畜無害装っておきながら本性はそんな…奴だったなんて…。
『はァっ…かしま…っ!かしま…ぁああっ!!』
『…っ…、…我慢しろ。あと少しだ…』
『ん…ッ、ん、ぁ!――んんっっ!!はァ、っ…ぁあ…』
「(…ぁああもう!!これ以上聞いてられんっ…)」
聞けば聞くほど冷や汗がだらだら出てきた。まだ自分には早すぎる。
というか知ってはいけないものを知ってしまった気がする。
心の中で、鹿島のケダモノぉおお!!と叫びながら神武は赤面して涙目で走り去っていった。
…その頃室内では…。
「…?
(…今誰かの気配がしたよーな…)
」
「どうした諏訪」
「や、別に。…てかよ、鹿島!!」
「何」
「お前力強すぎだ!!もっと優しく揉めよゴラァア!あー、くそ。動けん…」
鹿島の下でうつ伏せなってる諏訪がぎゃんぎゃん喚いた。
それを見下ろしながら、鹿島は、はー…と呆れたように息を吐き、前髪をかきあげた。
「うるさい。とゆかお前が電気マッサージしてくれっていったんじゃん」
鹿島のジト目に、諏訪はうっ、と言葉に詰まり、気まずそうに目を逸らした。
確かに頼んだのは自分だ。
しかしそれは想像以上だったわけで…。
「うるせー!
誰があんなん想像するか!!」
「けど、楽にはなったろ?肩」
言われてまたも言葉に詰まる。
本当なだけに言い返しにくい。
「…。ま…まぁ。
しょーがねえなぁ!…あ…ありがとよ。」
「…、諏訪」
ぼそぼそと諏訪は若干照れながら呟く。
彼からお礼を言われたのが初めてだった鹿島は、目を丸くした。
「い、一回しか…言わねーからなっ…。
…あ。あとこれやるよ。手ぇ出せ」
苦しいがうつ伏せのままズボンのポケットに手を伸ばしごそごそと探って、手にしたものを握りしめたままに、隣に座り手を差し出す鹿島の掌に拳を乗っけた。
「…?な、なんだ?」
「…っ、お礼」
ぶすっと諏訪が答える。
しかし鹿島はお礼と言う言葉を耳にすると
、あまり表情は変わらないものの、まるで猫を見つけた時のように嬉しそうに瞳を輝かせた。
(…そ、そんなに嬉しいのか?こいつ…)
「…で、これ何だ?」
「え?お礼の200円」
「安っ」
「うるせー」
諏訪が拳を開くと鹿島の掌には2つの銀色が転がる。
後でコンビニでも行こうと思っていたが、鹿島にあげることにした。
…まぁ…あげる、って言ってもうちの神社のお賽銭だけど。
「…。なぁ諏訪」
「なんだよ」
「これ…どーやって使うん?」
え。と諏訪は固まった。
こいつ、お金の使い方知らないのか…?
「…はぁ」
「?」
仕様がない。今度鹿島も買い物に連れてってやるか、と諏訪はぼんやり考えた。
ついさっきまで盗み聞きしていた神武の気など全く知らず。
翌日、何故か親戚中からケダモノ扱いをされるも、本人には全く心当たりがなく
頭を抱える鹿島の姿があったとか。
因みに神武はあの出来事から、盗み聞きなんて絶対しないと固く誓ったそうな。
――…
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