そのまま暫し天照を抱きしめていた鹿島だったが、やがて静かに彼女の耳元で口を開いた。
「……。
天照様…、
今から話すことを、黙って聞きいてくれますか…?」
「………」
天照は黙って耳を傾け、軽く首を縦にふる。
「
俺は…。
貴女が居なくなって初めて…気付いたのです。
…貴女が……
天照様が好きなのだと…。
お慕い…しているのだと」
「……!」
刹那、鹿島の胸に身体を預けたままの天照の琥珀色の瞳が、大きく揺れた。
…一瞬息をするのを忘れたくらいに…驚いて。
それとともに、ますます煩いくらいに忙しなく高鳴る鼓動。
優しさを持った声が、頭の中に反響して溶けていく。
(彼が…私を…好き……)
驚いたけれど…全然嫌ではなくて、むしろ嬉しいと…そう素直に感じて。
あれだけ煩く感じていた鼓動も、甘いリズムを刻む物へと感じ始めていた。
きっと…自分も彼と同じ…
好き…という気持ちなんだろう。
もっと好きだと…言ってほしい…。
けれど
それ以上は…今は言わないでほしい…
それ以上言われたら きっと…
本当にあそこに戻れなくなってしまいそうだから…
「………えぇ………」
答えを返すように、微笑みながら彼の背中に腕を回す。
彼も此方の考えを汲み取ったのか、何も言わずに強く抱きしめ返してくれて。
それだけで、今は充分満たされた気持ちになれる。
ふと目に映った 雨の滴に滲む彼の黒い髪。いつもの癖の強い髪は今は濡れて真っ直ぐになっていて…。
ぼんやりと光を受け、解かれるために結んだ髪が ただただ綺麗だと思った。
「…、帰りましょう…。
アマテラス様」
暫くして、鹿島が口を開き、二人の静寂を破る。
天照はゆっくり顔を上げた。
その瞳が、微かに不安の色を宿して揺れる。
「……。いいの…?
私は…戻っていいの…?」
「当たり前です。
先程も言ったじゃないですか。
俺は…貴女がいい。貴女でなければ…俺は嫌です」
いつの間にか雨は止み、雲間から青空が覗いて 柔らかな光が二人を包みこんで明るく照らしていた。
けれど、天照の表情は未だ曇ったまま。
「でもまた…貴方や皆に迷惑かけるかもしれないし…。頼りきってしまうわ…」
「…そんなの、別にいいじゃないですか。」
「…ぇ…」
「使いたいのなら使ってください…。苦しいのなら苦しいと言ってください…。頼りたいのなら…頼ってください…。
弱音だろうと我が儘だろうと何だろうと、全てぶつけて下さい…。
俺は、貴女の為に存在しているのですから…。貴女のためなら…全て受け止めます」
「タケミカズチ…」
「…何も言われない事の方がずっと心配になります…。
きっと皆だってそう思っているはずです」
綺麗な黒曜石の瞳が 天照を静かに見下ろす。
「…どうしても不安なのなら、俺がずっと…天照様のお側にいます。
貴女のお側に…涙のお側に」
天照の前でひざまついて、手を差し伸べる鹿島。
「…っ…」
私は
周りを明るく照らせるけれど 心の中ではいつも 一人だと…ずっとそう思ってた
だけど
違った。
気付かなかっただけで…ずっとずっと…一番側にいてくれてたのね…
もしかしたら私は
貴方に逢って、愛されるために 生まれてきたのかもしれない…
ね、タケミカズチ…
「……えぇ……。
…それなら私は…貴方を照らす光になりましょう…」
鹿島の手に己のを重ね、涙を浮かべながらもやっといつもの笑顔を見せてくれた天照に、鹿島も安堵の表情を浮かべたのだった。
「はい…。
また……。ここで二人で見ましょう
あの日の夕暮れを」
皆が私のことを
太陽と呼ぶ
私は――…
それに応える…――
貴方がいたから
私はまた
帰ってこれたの
ありがとう…タケミカズチ
――――
(って…アマテラス様お怪我なさってるじゃありませんか!!…着物までこんなに…)
(あ、だ…大丈夫よこのくらい…)
(ダメです!早く手当てしに戻りましょう)
ひょい
(きゃあっ!?ちょっと…横抱きなんて恥ずかしいわ…)
(我慢してください)
(ちょっと…!タケミカズチぃっ!!?)
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マクロスFの「妖精」を雷日変換して聴いたらたぎったので…(*´・・ゝ・・`)
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