小説 | ナノ
 
12月25日。クリスマスの夜。








雪男が風呂から上がって部屋に戻ってくると、燐が机につっぷして静かに寝息をたてていた。
彼の腕の下敷きになっているものを覗き込むと、開いたノートと教科書、筆記用具。
成る程、勉強していたらしい。めんどくさがってるくせに、ちゃんとやっているではないか。とノートを見る。


(はは、…一問以外全部外れじゃないか)


まあそんなところが兄らしい、だなんて口元を緩める。
だが今日は多目にみてやろう。
今日は祓魔塾の皆と誕生日パーティーをしたのだ。雪男も柄にも無くはしゃいでしまったが、一番楽しそうにしていたのは兄である燐の方だった。恐らくはしゃぎ疲れて寝てしまったのだろう。
…しかし、祓魔師を目指すと宣言してから、あんなにも心から楽しそうにする燐を久々に見た気がする。


(…あ…)


ふと窓の外を見ると、雪が降っていた。
初雪だ。
確か、雪男と燐がまだ小さかった頃、父である藤本が「お前らと出会ったのもこんな雪の日だったっけ」と語っていたものだ。


淡く夜の黒檀の闇に星さえも隠して降るそれを見て、灰みたいだ、と雪男はぼんやりと思って目を伏せた。
昔はそんなこと、思ったことが無かったのに。きっと、あれだけはしゃいだ後だからセンチメンタルになっているだけだと自分に説いて、再び燐に視線を移した。


神父(とう)さんが死んで、悪魔として覚醒してからもいつもみたく馬鹿言って、無鉄砲で、真っ直ぐで、燐は表面上は変わらないように見えた。だけれどそれは…違うのだと雪男はよく知っていた。彼はとても強がりで、とても弱い。
泣きたい程悲しい時も、皆の前で泣かず、隠れて一人で泣くのだ。
この前の晩も、燐のベッドからすすり泣く声が聞こえ、心苦しくて堪らなかった。



「兄さん…」


呟いて 自分より小さな体を抱き締める。


あのとき
死んでくれ、なんて口にしたのは 本心であって、本心ではなかった。
生まれながらに自分には無いものを持ってて、いつでも優しくて、強くて、そんな兄が好きで、守りたくて、なのに疎まし思う自分もいて。居なければよかったなんて思ったこともある。けど、一人だけの兄だから、同じくらい、ずっと一緒にいたいとも思う矛盾した感情。
この矛盾が生み出した言葉に、兄はどれほど傷ついたのだろう。


燐に、この世界に入ることをとどまって欲しかった。魔神の力を持った彼が 祓魔師になるなんて荊の道しか待ち受けていないのを知っているから。
ああ言えば、諦めてくれると思った。弟である自分を軽蔑して祓魔師になるのを諦める、それでいい。
そう思っていたのに…最後まで止めることが出来なかったのは、彼の真っ直ぐな瞳に
圧されてしまったから。



「…雪…男…」


「…!」


囁くように呟かれた寝言とともに、燐の頬を伝った一筋の雫に、雪男は目を見開く。

自分は馬鹿だ。
守る 守る言って、ちっとも兄を守れていない。こんなに側にいるのに…。




自分の周りの世界が
形を変えるたびに、失ってきた。
神父(とう)さんを 自分を 兄の笑顔を。
いつか兄を失ってしまうのかと思うと 怖い。怖くてしようがない。

あぁ、駄目だ。目の奥が熱い。




たまに、なぜ自分が戦っているのかと問いかけることがある。
けれどそれは

(…愚問…だな…)


兄を守るために、強くなると決めたのは自分。何度問い返したって答えは同じ。
兄を守るために戦う、それが自分の決めた道。




「兄さん…




愛してる…」


絞り出すように小さな声で愛を囁いて、静かに涙を流す。


愛してる なんて…なんて重い言葉なんだろう。
この想いは…燐は知らなくていい。
自分がずっと、ずっと背負えばいい。それでいい。





そこから
雪男の意識は途切れてしまっていた。





――――



「……。


馬鹿だな…雪男…。」




自分に抱きついている体制で寝ている雪男を優しく撫でる。


双子なんだから、もっと頼ってほしい、痛みも重みも半分背負わせてほしい。




頼りない兄貴かもしれないけれど、それでもお前は、たった一人の弟だから…



「 メリー…クリスマス






俺も………愛してる…」









燐が優しい声音で囁いて雪男の額に口づけたことを、雪男は知らない






















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ash like snow聴いてたら雪燐にしか聴こえなくて書いた(^q^)
ある方に捧げます!!









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