「紗優ちゃん、今日も可愛いね!」
「おおー!今日の髪型もすごい似合ってる!かっわいー」
「怒ってる顔も可愛いなあ、紗優ちゃん」
「ああもう!うるさいよ千石!」
口を開ければ私を可愛い可愛い。極めつけには、
「えーだって俺、紗優ちゃんのこと好きだからさ、仕方ないよー」
私のことを好きだと言う。千石の言うことだもん、信じられる訳がない。どうせいろんな女の子に言ってるに違いないよ。千石の言う可愛いなんて、女の子の言う可愛いと同じだろうし。好きっていう言葉だって、挨拶みたいなもんなんじゃないの。本気で受け取るなんて馬鹿じゃん。そんな言葉、受け取ってやるもんか。……そんなことで傷つきたくない。
「はいはい、そうですかー」
「えー、信じてないでしょー」
「何を」
「俺が紗優ちゃんのこと好きだって」
いつもなら私が適当にあしらえば別の話に切り替わったりするのに、今日の千石はなんだかいつもよりぐいぐい来てる気がする。しまいには私の前の席に座り出した。この話をやめるつもりはないらしい。
「信じられるわけないでしょ」
「え!どうして!」
「どうしてって……、わかんないの?千石、女の子にだったら誰彼構わず言ってんじゃないの」
「うっわーひどいなー。好きだなんてそんな簡単に言わないよー」
「いつも言ってるじゃん」
「紗優ちゃんにだけでしょ」
「か、可愛いはみんなに言ってる!」
んー、と顎に手を当てて考える千石。何をそんなに考えることがあるのか。私の言ってることは間違ってないはずだ。そして私の目をまじまじと見てこう言った。
「もしかして、妬いてる?」
「そ、そんなわけないでしょ!!!」
私は千石の言葉に思わず大きな声を出してしまった。どどどどうして私が妬かなきゃなんないの!意味わかんないしっ!ばーかばーか!
千石はというとにやにやと私を見ている。
「俺、女の子はそれぞれみーんな可愛いと思うんだ」
「……ふーん。だからなによ」
「でもさ、紗優ちゃんは特別なの」
「なっ……」
「こんな俺でも好きな女の子はひとりしかいないんだよ」
千石は私を見つめたまま、私の机に頬杖をつく。あっという間に距離が近付く。
「う、うそ……だ……」
「俺は君じゃなきゃ好きだなんて言いません」
「っ……」
上手く言葉が出てこない。それはきっと今の千石がいつもの千石と違うから。いつものように言ってくれれば、言い返すこともできたのに。どうしてこんなに真剣な目をするの?
「ねえ、紗優ちゃんは俺のことどう思ってる?」
「……き」
「ん?」
「……すき」
言っちゃったよ……!もうだめ、恥ずかしすぎる。私は真っ赤になってるであろう顔を両手で隠した。千石はまた私を可愛いと言い、くすくす笑っている。
私って馬鹿なのかな。千石の言葉、本気で受け取っちゃった。いつか、女の子絡みで傷ついたりするのかな。でも、
「ほーら、いつまで顔隠してるのー?」
「や、やだ!触んないでよっ」
「今のその可愛い顔、ちゃんと俺に見せてよ」
「うるさいってば!ばかっ!見ないで!」
「ハハ、やっぱり紗優ちゃんが一番可愛いなあ」
指の隙間からこっそり見た千石の顔は本当に嬉しそうに笑っていたから、馬鹿も悪くないなって思った。