「…じゃあ、また明日な」
「う、うん……ばいばい」
俺には最近彼女ができた。俺より小さくて、笑った顔が超可愛い子。ずっと気になってて、勇気を出して告白してみたらオッケーをもらえた。付き合うことになったのは本当に嬉しいことだし、今でも夢なんじゃねーかって思うぐらいだ。
だけど何でだ?会話が全然続かない。一緒に帰る時なんてめちゃくちゃ気まずい。何を話せばいいのかわからなくなるくらいパニックになる。そして気付けば梓川の家の前ってパターン。
「はあ、…激ダサだよな」
宍戸の口癖を使ってみる。…本当に俺って激しくダサい気がする。実は俺のこと何とも思ってないんじゃねーかとか、悪いことばっか考えてしまう。俺、そんなに考えるの好きじゃねえんだけどなあ。
ああ、もう!我慢できねー!明日辺り経験豊富そうな侑士にでも相談してみるかな。……いや、だめだ。明日まで待てねえ!このまま侑士ん家に直行だ。
「直行と言ったものの、侑士家にいんのかなー。ケータイ話し中だしよー何なんだよクソ侑士」
文句を言いながら石ころを蹴る。別に侑士が悪い訳じゃねーけど、まあ気分的に。
石ころを蹴りながら目的地に向かっていると、コンビニの前に買い物を済ませたのだろう、腕に袋を提げた侑士がいた。ケータイで話しているみたいでこちらには気がつかない。
「チッ、楽しそうに電話しやがって」
なんかムカつくからさっきまで蹴り続けていた石ころを侑士に投げつけてみた。当たった。ナイスコントロール俺!
「痛いやんけ岳人!」
「俺じゃねーし」
「こんな石投げつける奴おまえしかおらんやろ!」
「あれ?電話は?」
「…さっき切ったわ」
「つーか仲良く誰と話してたんだよ!俺おまえに電話したんだぜー」
「梓川さんや。岳人の彼女さん」
「…は」
今、何つった?梓川?なんで、侑士はアイツと電話してんだ?なんでケー番知ってんだよ。聞きたいのに、頭が混乱してて上手く言葉が出ない。
「それにしても梓川さんおもろいなあ。岳人の彼女なんが気にいらんけど」
「……っ」
俺は無意識のうちに駆け出していた。侑士がにやりと笑みを浮かべていたのにも気づかず。
クソクソクソ!今さっき一緒に帰ってきたとこじゃねーか。なのに何で侑士と電話なんかしてんだよ。誰かと話したかったんなら、俺で良かったじゃん。……そっか、俺アイツの前だと上手く喋れねんだった。情けねえ。
侑士は笑ってた。だからきっと梓川も、電話の向こう側で俺の大好きな笑顔を作ってたんだろう。
悔しい…。俺が一番梓川を好きなのに。俺が、梓川を笑顔にしたいのに。
「向日、くん…」
目の前に少し驚いた顔をした梓川。何で外に出てんのかとか、今はそんなことどうでもいい。
「何で侑士なんかと電話してたんだよ。話し相手が欲しかったんなら、俺がいるじゃん…」
「…」
「俺だと話続かねえし楽しくないかもしんねーけど、…好きなんだよ、梓川のこと。だから…、上手く喋れねえっつーか、その…、いっぱいいっぱいで。格好わりーけど」
「……同じ…だ」
「へ?」
ぼそりと聞こえてきた声に俺は目を見開いた。同じ…ってどういうことだ?
「私も向日くんと喋ろうとすると、いっぱいいっぱいになっちゃって言葉が上手く出てこなくなるの…」
「……え」
「だからね、楽しくないんじゃないよ」
「……そっか」
驚いた。驚きすぎて、素っ気ない言葉しか返せなかった。でもまさか梓川も俺と同じように考えているとは思わなかった。
いや、でも…
「侑士と電話してたの、あれって俺と話すより楽しいからとかじゃねーの?」
「違うよ。忍足くんには、少し相談に乗ってもらってたの」
「相談?」
俺がそう尋ねると梓川は恥ずかしそうに俯いて言った。
「向日くんと、どうすれば普通に話せるのかなって…、どうすれば、いっぱい話せるようになるのかなって」
「え…、」
電話の内容って俺のことだったのかよ…。ああ、馬鹿だ俺。何ひとりで焦ってたんだよ。恥ずかしすぎる。
つーか侑士超ムカつく。どうせ梓川が家の外にいたのも侑士に言われたからなんだろうし。「岳人そっち向かったと思うから、家の前で待っといたってー」みたいな。あーやられた。
「私だって、向日くんが好きだから……」
前髪の間からちらりと覗く瞳とほんのりと赤く染まった頬。なんでこんなに可愛いんだと思ったときには、もう梓川を抱きしめていた。
「む、かひくん……」
「…もう侑士に相談とかすんなよ」
「え…、ふふ。うんっ」
「わ、笑うなっつーの!」