俺は梓川夕姫が好きだ。

最初はただ、高い位置で結ばれたポニーテールを見ているだけだった。風が吹いたりあいつが動いたりする度に揺れるそれが、なんとなく気になっただけ。

だけどいつからか、ポニーテールなんかよりもあいつの笑う顔、眠たそうな顔、吃驚した顔、そんなのを見るようになった。

そして気付いたことがひとつ。


「なんて顔してんの」

「げ…、越前くん…」

「真っ赤だけど?」

「わかってるよ!でもしょうがないじゃん!恥ずかしいんだもん」


梓川は両手を自分の頬にあてながら、怒った風にそう言う。熱を帯びた頬を手の温度で冷やそうとしているのだろうけど、見ている限り冷める気配は全くない。


「あいつのこと、気になるの?」

「気になんないっ!男の子と喋り慣れてないだけだってこの間も言ったでしょ!」


そう、梓川夕姫は男と話すと顔が赤くなるのだ。梓川が言うには、女5人きょうだいで、小学生のときも男子と関わらなかったからこうなったらしい。要するに男に免疫が全くないってことだ。


「でもさ、俺とは普通に喋るよね」


そう言ってる間にも、大分頬の赤みが抜けてきている。


「んー、越前くんは慣れちゃった。それにほら、男っぽくないじゃん。背も同じくらいだし」

「…はあ?男っぽくないって何。頭に来るんだけど。それに男はこれから成長するのバーカ」

「バカじゃないもん。それくらい知ってるし」


イラつく。
身長とか男っぽくないとか、そんなのにイラついてるわけじゃない。そりゃ多少ムカつくけど。

それよりも、


「梓川ー、ノートここ置いとくぜー」

「あ、 うんっ。ありがと…」


何でこの会話だけで恥ずかしがるわけ?意味分かんない。俺のときには顔、赤くならないくせに。
それが一番ムカつくんだよね。


「ねえ、何で俺のときには顔赤くならないの?」

「だから慣れちゃったって…」

「何しても、赤くならないの?」

「何してもって」


俺はぐいっと梓川のリボンを引っ張って、自分の元へと引き寄せた。そして触れるだけのキスをした。


「な、ななな何で…!?」

「赤くなるんじゃん」


とまとほっぺな君へ
これからはそんな顔、俺だけにしてよね

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