千石くんのおかげで気持ちが落ち着いた……のはいいんだけど。

「せ、千石くん?ありがとう…離していいよ?」






06.帰り道






「んー、俺はもうちょっとこのままが…」

「せっ、せせ千石くんっ!」

「へへっ、冗談だよー」


ぱっと私を離して手の平をひらひらさせる千石くん。どうしよう。本当に冗談だって分かってるのに、心臓はどきどきと音を立てたままだ。…てゆーか、私何してんの!会ったばっかりなのにっ。わわわ、今更ながら混乱してきた!ほんと、何してんの私!


「あ、南たち帰ってきたよ」

「う、うん」

「どうかした?…ってやっぱりもう少し俺と2人っきりが良かったー?」

「ち、違うもんっ」

「あはは、怒らない怒らない」


こうやって、ただからかわれるだけなのに私は嬉しくなってしまう。どうかしてるよね。


「お待たせー!はい、ジュース」

「ありがと詩織。南くんもありがと」

「どういたしまして」


私たちはジュースの蓋を開け、一服する。涼しい風に揺れるコスモスは仲が良さげにみえる。


「そういえばさ、コスモスの花言葉って何だっけ?」

「はいはーいっ!詩織ちゃん、俺知ってるよ」

「えっ!何ですか?」

「いろいろあるみたいなんだけど、俺が知ってるのは『乙女の真心』とか『調和』とかかな。色によっても違うらしいよ。例えば赤だったら『乙女の愛情』とかね」

「へえ、物知りですね」

「へへ、まあね」


千石くんはそう言いながら私をちらりと見た。そして小さく笑ってまた詩織と話し始めた。……今のは何だったんだろう。何か変なことでもしたっけ?私。



「日も暮れてきたし、そろそろ帰った方がよさそうだな」

「そうだね。じゃ、駅まで送るよ。詩織ちゃんも電車でいいのかな?」

「あ、はい!今日は電車で来たんで」

「ごほん、えー、ずっと思ってたんだけど詩織ちゃんも敬語じゃなくていいんだよ?君たち揃いも揃って礼儀正しいんだから」

「あ、ごめんなさい」


そう言って千石くんと詩織はお互い笑い合った。…ずきん。なんだ、これは。二人を見ていると胸がきゅうっと痛くなる。これは千石くんのことが好きだってことなの…?


「よし、じゃあ帰ろう」

「ええ、ちょっ」


千石くんはぱっと私の手を取り、詩織と南くんの前を歩いた。握られているところが熱い。それが身体全部に伝わっていくのが分かって、私は余計に恥ずかしくなった。


「瑠依ちゃんってさ」

「へ?」

「コスモスみたいだよね」

「え?コスモス?」

「うん、コスモスっぽい」


私のほうを見てやんわり笑う千石くん。よく分からないけど、笑顔の千石くんを見ると幸せな気持ちになる。


「花言葉なんてぴったりじゃん。『乙女の真心』持ってそうだよね〜瑠依ちゃん」

「な!からかわないで…よ」

「からかってないよ。ホント可愛いなー瑠依ちゃんっ」

「…もう」


どこまでが本気でどこまでが冗談なんだろう。わからない。それでも照れちゃう私ってどうかしてる。でも、それがどうにもならないのは、もうわかってる。

私……、


「あ、もう着いちゃったね。時間大丈夫?」

「大丈夫。送ってくれてありがとうね」

「いいえ、どういたしまして。詩織ちゃんもまたねー」

「うんっ、今日はありがと、楽しかった。南くんもありがとね」

「ああ、また遊びにおいで」

「うんっ」


詩織と南くん、いつの間にか結構仲良くなってる。良かった、なんか嬉しいな。

電車の来る時間になり、もう一度お礼を言って改札へ向かう。すると、後ろから大きな声が聞こえた。


「瑠依ちゃんっ、絶対大丈夫だよっ!だってコスモスだもん」


ふふ、何だそれ。

千石くんは大きく手を振って私を安心させる笑顔でそう言った。だから私も千石くんに負けないような笑顔で手を振った。



私……、千石くんが好きです。