やっと今日の授業が全部終わった。…だけど、やばい。本当にやばい。授業全然聞けてなかった。
何でこんなに浮かれてるの、私。






04.気持ち







「あー、やっと南さんに会えるね」

「詩織、南くんばっか」


私は嬉しかった。詩織がこんな風に笑うのって、本当に楽しみなときぐらいだから。いつも私のことを気にかけてくれて、最近は心配そうな顔ばかりさせてた。








「山吹中到着ーっ!…なんか私たち浮いてるね」

「…だね。恥ずかしい」


山吹中の制服は男女両方共、白がベース。(ていうかもう真っ白だよ)でも私たちは紺がベースのセーラー。真っ白っていう方が珍しいはずなのに、ここに立っていれば私たちが逆に目立つ。うわ、ほら、またこっち見られた。


「瑠依ちゃーんっ☆待ったー?」

「…!」


どきん


心臓が跳ねる。な、何で…。何でこんなにどきどきするの。ただ千石くんが来ただけなのに。


「あ、君が瑠依ちゃんの友達?」

「あ、はいっ!夢宮詩織です」

「詩織ちゃんね。オッケー!俺は千石清純でこっちが南」

「…適当だな」

「み、南さん…」


詩織の目、すごい輝いてる。それにしても千石くん、誰にでも名前で呼ぶんだ。そりゃ、私だけが名前で呼ばれるなんて可笑しいけど、ちょっと残念。……でもまあ、電車で声をかけてくる時点で軟派な人なんだよね、うん…。


「瑠依ちゃん?大丈夫?」

「あ、うん!大丈夫だよ」

「それじゃ、ひとまずここから離れよっか」

「どこに行くの?」

「まだ内緒だよ」


千石くんは自分の口の前に人差し指をおいてそう言った。そして私の隣を歩き出した。
詩織は南くんと私の後ろを歩いてる。なかなかいい感じだな。

せっかくだから私も千石くんといろいろな話をした。山吹中のテニス部の話とか、南くんのいじり方とか。南くんは馬鹿やろうって言って、後ろから千石くんの頭をチョップした。ああ、楽しいな、こういうの。美鈴ともこんな風なことしたことあったな。それで詩織が止めに入るの。でも最終的に詩織と美鈴がやり合って私がその2人を止めてたんだ。…いつもそんなのだったな。


「……」


そろそろ着くんじゃないのかなってところで千石くんは私に質問した。


「ねえねえ、瑠依ちゃん。瑠依ちゃんって花好き?」

「え、花?」

「うんうん」

「好きだよ、今の季節は…」

「コスモス、とかね」


千石くんは右の角を指差した。私はもしかしてと思い、タタッと小走りでその角を曲がってみた。


「わあーっ、すっごい!ね、ねえ詩織!見てこれ!」

「なになに〜?」


とても広大なコスモス畑。赤、桃、白、どれも綺麗に混ざり合って咲いている。こんなところにこんなにも綺麗なコスモス畑があっただなんて、知らなかった。

私はコスモスをもっと近くで見てみたくて、その近くまで詩織の手を引いて駆け寄った。

「すんごーいっ」

「コスモス可愛いねえ」


私たちは暫くしゃがみ込んでそのコスモスを眺めていた。
こちらまで歩いて向かってきたのであろう千石くんが、私の隣に私たちと同じようにしゃがみ込んだ。


「どう?綺麗でしょ」


そう言って私に笑顔を見せてくれる千石くんも、コスモスみたいに綺麗だ。オレンジ色の髪がそれを一層引き立たせる。いいな、いいな千石くん。


この気持ち、
私、千石くんが好きなのかな…。