次の日、また私は昨日と同じ時間の電車に乗った。そしてあの人を探してみる。……今日は乗ってないのかな。残念。





03.お誘い






「はあ…」


昨日会ったばかりの人なのに、どうしてこんなにも気になるんだろう。あの綺麗な明るいオレンジ色をした髪の、そうそうこんな感じの……


「せせせ、千石さんっ!?」

「やあ、おはよー♪ぼーっとしてたけど、どうかした?」

「い、いえ…別に何も」

「ふーん、…そっか」


び、びっくりしたあー!
千石さんを探してたなんて知られたら、恥ずかしくてもうこの電車に乗れなくなっちゃう。


「あ、そういえばさ、君って何年生なの?」

「中学3年ですけど」

「やっぱり!俺と一緒だよ。ずっと敬語だから気になってたんだよね」


「それよりおまえ、先に名前聞くだろ。普通は」


人の群からにゅっと顔を覗かせたのは南さんだった。朝は混んでいるから、窮屈で少ししんどそうだ。私はというと、人がピークになるときのふたつ前で電車に乗るから席に座れる。いつも座ってるし、変わってあげられればいいんだけど。

あ〜南ィー、よくここだってわかったねーとか何とか言う千石さん。南さんは呆れた顔をしておまえの頭のおかげでな、と言った。うん、南さんの言うとおりだ。


「おはようございます、南さん」

「おはよう」

「だーかーらっ!タメでしょ?敬語禁止ーっ」


千石さんは拗ねた子供のように顔をぷいっとそらした。言っちゃあ駄目なんだろうけど、なんだか可愛らしい。


「千石さん」

「"さん"もだめ」

「え、…さん付けだめ……。えと、千石……くん」

「何ー?」


満面の笑み。きゅうっと胸が締め付けられるような感覚。なんなの、これ。


「あ、そうだ!君の名前聞かなきゃだったね。教えてくれる?」

「えと、赤星…瑠依」

「うんうん♪君にぴったりの可愛い名前だね、瑠依ちゃんっ」


千石さ…じゃなかった。千石くんは躊躇いもなく私を名前で呼んだ。やっぱりこのオレンジ頭だし、女の子に慣れてるんだろうか。(←偏見)私は男の子に名前で呼ばれたことないから、恥ずかしいのに。


「千石、時間」

「え、もう着いちゃうの!あのね、瑠依ちゃん。俺瑠依ちゃんに見せたい場所があるんだよ」

「見せたい場所?」

「うん。どこだかはまだ秘密だけどね。山吹中の場所は知ってる?」

「一応知ってるよ」

「じゃあさ、今日学校が終わったら山吹中の前で待っててくれない?大丈夫?」

「と、友達も連れてきていいなら…」

「全然オッケー!むしろ瑠依ちゃんのお友達なら大歓迎だよ」

「ありがとう」


私がお礼を言った後、向こう側の扉が開いた。


「じゃあね☆」

「じゃあまた後で、赤星さん」


「ま、またね」


や、約束しちゃった…。まだ会って2日しか経ってないのに。大丈夫かな?でも千石くんと南くんだもん、心配ないよね。それに友達も連れてきてもかまわないって言ってくれたし。






「と、いうわけなんだけど」

「行く行く行くっ!絶対行くよー!」


勿論私が誘ったのは詩織だ。南くんに会ってみたいって言ってたしね。


「こんなにも早くに南さんに会えるなんて〜…うふふふふ」



詩織のまわりには幸せオーラが漂っている。どれだけ楽しみにしてたんだろう…。…詩織、南くんに何もしないといいけど…。