「…学校、着いちゃったな…」





02.問 題




学校に着いた私は下足箱で上靴に履き替えた。パタンと下足箱の蓋を閉めて教室へ向かう廊下を歩いていると、後ろから聞き覚えのある元気な声が聞こえてきた。


「おっはよー!瑠依ーっ」


そう言ってバシッと私の肩を叩いたのは親友の夢宮詩織。私は叩かれた肩をさすりながら、あいさつを返した。


「おはよう、詩織。今日は一段とパワフルだね…」

「え、そう?ありがと!」

「……」

「あ、そういえばさ!…美鈴のことだけど、大丈夫なの?」


声を潜めて言う詩織の言葉に私はどきっとした。大丈夫じゃないけれど、心配はかけたくなかった。だから、大丈夫だよって言った。そう言うのが一番良いと思ったから。


「…なら、いいんだけどね。何かあったら言ってよ?」


詩織は納得がいかないような顔をしていた。でもそれ以上深くは聞いてこなかった。そうやって気を使ってくれるところが詩織の良いところだと、私は思ってたりする。

それはそうと、詩織が心配していたのは私と美鈴のこと。美鈴とは少し前にトラブルがあった。そのトラブルっていうのは、美鈴の好きな男の子が私に告白してきたというもの。私は美鈴の好きな人のことを知っていたし、その人を好きじゃなかったからもちろん断った。
けれどその一部始終を美鈴は偶然見ていたみたいで。そのときから私と美鈴の関係はぎくしゃくし出して、遂には口も聞かなくなった。ずっと仲がよかったのに。元に戻りたくても、どうすればいいのかわからなくて。




「瑠依ーっ!ご飯食べよ」

「あ、うん!」


午前中の授業はまた美鈴で頭がいっぱいだった。このままじゃだめなのにな…。


「ん〜、これ美味しい!瑠依も食べ……」

「……」

「はあ…、全然大丈夫じゃないじゃん!…このミカン食べちゃうよ!?」


詩織は私のお弁当セットの中からミカンを取り出して、お茶目にそう言った。太陽の光に照らされるミカンはきらきらと輝いているように見えた。


「おれんじ……」

「ん?オレンジがどうかした?」


私は、今朝電車で会った千石さんを思い出した。あの人の髪の色も、このミカンみたいに綺麗なオレンジ色だったな。
このミカンを見ていると、なんだか千石さんに励まされてるみたい。今日会ったばっかりなのにね。ふぅー、しっかりしなきゃ。詩織には迷惑かけたくないって思ってるのに、逆に心配かけちゃってる。


「いつもごめんね。私がもう少ししっかりして…ってちょっと!ミカン食べないでよー!」

「ああ、ごめんごめん〜。ついっ。てゆーかさ、オレンジって何のことよ?」

「あー、あのね、今日の朝の電車の話なんだけどね」


私は詩織に朝にあった出来事を全部話した。もちろん、千石さんと南さんのこと。


「ぶふっー!マジウケるっ!えっと南さんだっけ?あたしも会ってみたーい!」

「そこ、ウケるとこじゃないってばー」


ありがとう、詩織。私が沈んでいると、いつもこうやって笑わせてくれる。隣にいてくれるだけで心があったかくなるんだ。