好きな人の笑顔って力になる。だからあれは私のお守りのようなものだった。
面倒な先輩に頭下げて、送ってもらった写メ。…代わりに1週間パシられたけど。あの紅白コンビ本当に禿げて欲しい。
閑話休題。
そんなやっとの思いで手に入れたのに、私は…!
現在放課後。部活をサボって絶賛捜索中です。
「赤星じゃん、何してんの?」
突然かけられた声に驚いて振り向けば、視界はあの特徴的な髪を捉えた。
「…切原こそ部活は?サボりとか真田先輩いるのに勇者だね」
「数学の課題忘れたから取りに来たんだよ!今は休憩だからサボりじゃねーしっ!」
「ふーん」
切原赤也。うちのクラスのムードメーカー。ワカメみたいな髪。私の、隣の席。
「ふーん、とか酷くね?」
「だって、どうせ後で写させてくれって頼むくせに」
「はぁ!?別にそんなこと」
「あるでしょ」
「うぐっ」
大袈裟に胸を押さえる切原に私の口元も緩む。
馬鹿だな。…可愛いけど。
「てか、赤星は何やってんだよ」
目を逸らす。それはちょっと触れられたら困る話題である。
「………別に」
「某女優的返事は求めてねえ!」
そうからからと笑う切原に胸の奥がきゅっとなった。
「何か探してたんだろ?」
「!」
「一緒に探してやるよ」
また、笑う。無邪気に近寄ってくるのは嬉しいけど、…けど!
「いや、悪いよ。切原部活戻んないと、また殴られるよ?」
「今日副部長、委員会で来ねえんだよ。問題無し!」
問題大有りだ馬鹿!でも探してる間2人きりだしなぁ。断れない私は…はぁ、何て現金なやつ。
「で、何探してんの?」
「………携帯、何だけど」
「はぁ!?お前、携帯なくすとかありえねー」
「しょうがないでしょ!?私だってなくしたくてなくした訳じゃないし!」
「悪い悪い。赤星の携帯って確か赤いやつだったよな?」
「え、あ、うん。よく覚えてたね」
「めっちゃカッケー色してたじゃん、当たり前」
………よくやった、携帯選んだ時の私!
「あ、中見ないでね」
「何で?」
「…何でも!」
「………まぁ、いいけどよ」
「昼まではあったから、多分教室なの。だからよろしく!」
「おう!任しとけ!」
ニッと人懐っこく笑ったのち切原はすぐに探し始めてくれた。
「(…心臓に悪い!)」
絶対今顔赤い自信ある…。ごまかすように鞄に手を突っ込んだ。切原に気付かれなくてよかった。
「お前携帯大好きだよなー」
がさごそとロッカー周辺を探しながら振られた話題の意図が、私には掴めなかった。
「…てかみんな大好きじゃん。私だけじゃなくない?」
「最近携帯ばっか開いてるし。彼氏でも出来たんじゃねーの?」
「え、何でそんな話にとぶのさ」
「だって、前はつけてなかったのに、今覗き見防止のフィルタかけてんじゃん」
驚いて探していた手を止めて切原を見る。
「………見た?」
「いや、だからフィルタかかってて見えなかったんだって」
見られていなかったことに安堵した。見られてたら絶対嫌われてたと思うから。
「…ほら」
切原が差し出してきたのは、見覚えのある赤色。…って、それ!
「私の携帯!」
受けとって中を見れば、そこには「笑顔」があった。
「うわ、切原、まじありがとう!神!これ、どこにあったの?」
「……………」
「切原?」
何か、様子おかしい…?いきなり黙り込まれ、私には疑問符を浮かべることしかできなかった。
「それ、さ」
「うん」
「持ってたの、俺」
「え、どういうこと?」
自分の処理できる範囲外の情報に、私の頭は大パニックである。切原が、私の携帯を持っていた…?
「赤星が最近携帯ばっか見てるし、何か…幸せそうに笑うから、悔しくてむかついた」
「…それって」
「だぁー!無理、見んな」
頭を抱えて顔を隠そうとする切原。でも真っ赤な耳は見えて。何、これは、期待してもいいの…?
「嫉妬した?」
可愛いくて、嬉しくて、からかうように声をかけた。絶対今の私にやけてる。
「……したら……かよ」
「何?」
「嫉妬したら悪いかよ!」
顔を上げた切原は、真っ赤なまま私を睨みつけて言った。
「赤星が好きだから、嫉妬したんだよ、文句あっか!?」
「………っはは、何それ!」
「笑うな!」
「ごめん、ごめん。でもそんなに喧嘩腰に言われるとは思ってなかったから」
嬉しくて、夢みたいで、でも凄く切原らしい告白で。あぁ、もう、頼むから私の表情筋仕事してよ!
「…で、返事は?」
「…ん」
さっき返ってきたばかりの携帯を開いて、切原に見せる。
「………え、俺…?」
「私も、これ見てにやけるくらいには切原が好きだよ」
待受は太陽にも負けない、眩しい笑顔の君。
「何だよ、それ」
「ひいた?」
「全然。嬉しくて、死にそう」
力一杯抱きしめられた。切原の髪が少しくすぐったくて。…顔が赤いのは夕陽のせい、なんて、ね。