「また親子喧嘩かコノヤロー」

「ごめんって」


悪びれもなく両手を合わして私に詫びるこの男、向日岳人。


「有り得ない。こんな時間に呼び出す?普通」

「んー、でもさ、来てくれたじゃん」

「そ、そういう問題じゃなくて」


ああもう、調子狂う。そんな風に笑うなんて、反則だよ。
辺りは静かで真っ暗で、ただ公園の電灯がちかちか私たちを照らすだけ。私は恥ずかしさを紛らわすためにブランコをゆっくり漕いだ。すると岳人も隣のブランコに立って漕ぎだした。きいきいと懐かしい音がした。


「帰りはちゃんと俺が送るから」

「うん、当たり前だよ」


ああ…。こういうとき、可愛く言える女の子だったら良かったのに。岳人の前では意地ばっかり張っちゃう。本当はありがとうって、素直に言いたい。


「…で、今日はどうしたのさ?」

「え…、何が?」

「何がって、今日はどうして喧嘩したのよ」

「あー、えっと、うん。もう大丈夫、怒り収まったから、な」

「そう、ならいいけど」


なんだ?今日の岳人何か変。いつもなら自分から聞いてくれって喧嘩の内容を怒り混じりに話すのに。どれだけそれが他人にとってつまらない内容だとしても絶対話すのに。どうして今日は話さないの?私もそう聞けば済むのに、どうしてか聞けない。


「岳人、私呼ばれる意味あったの?」

「え、あ、えーっと…い今何時!?」

「何時って…ったく。んーと…、12時前じゃん!私帰らなきゃ」


私はすたっとブランコから降り公園を出ようとした。するとやっぱり岳人も私のあとを追ってくる。


「え、ちょ待てよ!紗優っ」

「だめだめ、待たないよ」

「俺送るっつったじゃん!」


岳人は私の前に来て仁王立ちをしながら、ぷうっと頬を膨らました。悪いけど、全然恐くない。寧ろ可愛い。


「……」

「……」

「今、何時?」

「……、12時ぴったり」

「誕生日、おめでと」


岳人は私にそう言うと、私の手を取り帰り道を歩き出した。


「え、岳人…」

「今日は喧嘩したわけじゃねー。ただ俺が一番初めに言いたかったんだ。紗優におめでとうって」

「……」

「ごめんな、こんな遅くに呼び出してさ」

「…ううん。…私、」


素直になれ、紗優!岳人に今の私の気持ちを伝えないとだめだ。きっと遅くに呼び出して私を怒らせてるって思ってるはず。本当は嬉しいんだ。こんな風に祝ってもらえて。本当は嬉しいんだ。岳人に呼び出されて、岳人に会えるのが。


「嬉しいよ…、ありがとね」

「え……」


ぱっと私の顔を見る。私が素直に自分の気持ちを言ったのがそんなに珍しかったのか。失礼な奴だな。


「私、岳人に呼び出されるの嫌いじゃないよ」

「…紗優」

「どんな話でも聞いたげるからね」

「おうっ!」


私を照らすのは君の笑顔

私たちはぎゅっと握る手を強めた。

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