ふうん、あの子はたぶんそうなんだろうなあ。どうしてあんな風にできちゃうんだろう。
「何見てんだよぃ?」
「んー?あそこの女の子」
「おまえ、女に興味あんの」
「ばーか、私はばりばり男好きだよ」
「それ、別の意味にとるわっ」
けらけら笑う丸井は私の前の席に座って、おまえサイコーと私の髪をぐしゃぐしゃにした。そしてさっきの女の子を見つめた。……おい、髪直せっ。
「で、何で見てんの」
「いやね、あの子はきっとそばにいるあの男の子に自分をアピールしてるんじゃないかなって思って」
「あーなるほどね、…ってあれ赤也じゃね?」
「え、うそ、切原くんだったんだ。へえ」
「アピられてやんの赤也」
「でもきっと気付いてないね」
「あいつは気付かねえだろ。もっと直で行かないと」
「あ、でも寧ろみんな俺を見てるぜ、俺超格好いいしって思ってるかも」
「ぶふっ、どこのナルシだよ。赤也に言ってやろー」
「だめだよ、だめだからね」
私たちは顔を見合わせて笑った。そしてもう一度切原くんたちの方を見ると、切原くんが私たちを見てた。そんでもってほんわかした笑顔で先パーイって手ぇ振って呼ぶんだもん、丸井がもう我慢出来なかった。お腹を押さえながら床に転げ落ちた。
「あはははっ、腹痛えー!」
丸井が見えなくなったからなのか、切原くんがあれ?とでも言いたそうな顔でこちらを見てる。可愛い、可愛すぎる。それにしてもさっきまでアピってた女の子は私の方を冷たい目で見てくる。そんなだから切原くんに気付いてもらえないんだよ。
それからして、切原くんは男友達との会話に戻った。丸井はというと、やっと椅子まで這い上がってきた。
「笑いすぎだよ」
「あー面白かった、やっぱ赤也は赤也だわ」
「何それ」
丸井はまた切原くんを見てにやにやしてる。これ、私がいなかったらかなり怪しいと思う。
「ねえ、丸井」
「んー?」
「私ってさ、さっきの女の子みたいにアピールってできないのね」
「おー」
「でもやっぱり、好きな人にはアピールした方がいいのかな、とも思うの」
「んー…そうだな。ま、俺はもうとっくにしてるけどな」
「え、うそ」
私は素直に驚いた。あの丸井に好きな人がいるんだ。少し、てゆーか結構ショックだけど、まあ仕方がない。丸井の好きな人だもん、美人だったりするんだろう。そんなのに私はなれっこない。
「でもな、どんだけアピールしたって気付かねー奴もいんだよ」
「あー切原くんみたいに」
「そ、だからやっぱ最終は直だ」
丸井は自分の言ったことに手を組んでうんうんと頷いた。
「もう言ったの?」
「まだ。でも俺もう我慢できない。今から言う」
「が、がんばれ」
「……」
「……」
「おまえって、ばか?」
「…!?なぜに」
「あーなんかすげー腹立ってきたわ」
丸井はそう言いながら立ち上がると、自分の席へ戻ろうとした。私も立ち上がって丸井の後を行く。私は何か丸井の気に障るようなことをしたのか。
「丸井、ごめん。ごめんって」
「んーじゃあひとつ」
「え、…んっ」
な、ななななんで!?
あ、そそっか、わわわわ私は夢を見てるんだ。ま、丸井にきききキスされるなんて。うそ、なんで、どうしてっ。…まさか、
「丸井の好きな人って」
「おまえに決まってんだろぃ」
人に気付いてもらうのは
難しいものなのである。
(そ、それにしてもこんなとこでキスなんて)(いーじゃん。俺となんだし)