昼休み。ご飯も食べて特にすることのなくなった私は、適当に廊下をぶらついていた。そして食堂の前を通りかかろうとしたとき、私の目はある人を捉える。そのある人とは、桑田怜恩である。はっきり言っちゃえば私の好きな人。だけど桑田って女の子みんな好きそうな感じだし、舞園さんなんて特に好きじゃん。現に今だって舞園さんのことじっと見てる。……あれ?でも、なんでいつもみたいにアタックしに行かないんだろう。


「何してんの?」

「うわっ、おまえかよ!」

「おまえかよってひどいよね。で、何してんのさ」

「いやさ、苗木ばっかずるくね?」


私は桑田の隣に座り、彼の発言に頭を傾げる。苗木くんがどうかしたのか。桑田がじっと見ている方へ視線を向けると、そこに居たのは舞園さんだけじゃなく、苗木くんや霧切さんも一緒だった。3人で楽しそうに談笑しているようだ。


「俺今超フリーよ?どっちか俺に寄越せっつの!あ、出来れば舞園ちゃん希望ー」

「あんたより苗木くんの方がいいに決まってるじゃん」

「は?なんでだよ!」

「優しいしー」

「俺だって優しいだろっ!」

「桑田は下心見え見えだもん」

「あら、バレてる?」


頭を掻きながら、私に笑顔を見せる。うう、こういうのほんとにやめてほしい。いつだって、この笑顔には慣れないんだ。

私はできる限り意識しないようにと、話を元に戻す。


「苗木くんは女子からなかなかの評判だからねー。桑田はあんまり評判良くないけど」

「うっせーよ!おまえはどうなんだよ!」

「は?」

「おまえはどっち派だって聞いてんの!苗木か?俺か?」


桑田は真剣な表情で私を見つめる。
私はそれに耐えられなくなってすぐに目をそらした。けれど、視線をすごく感じる訳で。そんなにじっと見ないでほしいいい!な、何か言わないと…!



「さ……さくらちゃん…派」

「そっち!?確かにかっけーけど、違うだろ!俺か苗木、どっち!」

「…もう!桑田だよ!バカ!!」

「え、……マジ?」


私は居たたまれなくなって食堂から抜け出した。結構大きい声で叫んじゃったから、苗木くんたちがこっちを見てた気がする。あー!もう!顔があつい!恥ずかしい!みんなと同じように苗木くんって言ってれば良かったんだ。…でも、少しも振り向いてくれないんだもん。桑田に、私のことも見てほしかったの!仕方ないんだよっ!ああー、でももう顔合わせられないよー!


「………」

「桑田クン、小林さん出てっちゃったけど、どうかしたの?」

「何かしたのかしら?」

「なんもしてねっつの!つか、なんだよアイツ…、すげえ可愛かった…」

「???」

「マジやべえ……」


私の言動になかなかの破壊力があったことを、もう少し後で桑田本人に聞かされることになる。


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