今日は9月29日。
宍戸亮の誕生日…、氷帝学園ではそれが一般的に覚えられている。だけど、あたしだって今日が誕生日なんだから!!!

一年、二年と宍戸亮の所為であたしはみんなから誕生日を忘れられていた。別に私だってクラスみんなに祝ってもらおうなんてそんなおこがましいこと思ってない。だけど、仲がいい子とかにはやっぱ期待するじゃん。誕生日なんて一年に一回しかないし、祝ってもらいたいじゃん!なのに「あ、忘れてた!宍戸くんの誕生日のことしか頭になかったーごめんね、ハハ」それが二年も続いたってどういうことさ!あたしより宍戸亮って何なのさ!

で、今年は最悪なことに宍戸亮と同じクラスになってしまったから、去年よりも切ない思いをすることになるんだ…ぐすん。


教室に入ると初めからすごかった。宍戸亮の席の周りには女子は勿論のこと、男子もたくさんいた。その人集りの間から、宍戸亮と目が合ったような気がしたけれど、あたしはすぐに目をそらした。


「なにさ、あたしだって今日誕生日なんだから……」


ぼそりと呟いた言葉は誰の耳にも届かず、教室の賑やかな空気の中に溶け込んでいった。あたしはなんとなくここにいるのが嫌になって、教室を出た。



「はあ……、あたしって子どもみたい」


こんなことで落ち込んでる自分が嫌だ。宍戸亮が悪いんじゃないってのも分かってるのに、なんで勝手に八つ当たりしてんのあたし。誰もいないのをいいことに、最上階の踊場の隅っこで膝を抱えて座り込んだ。はあ…、だめだな、あたし。


「小林?」


あたしは膝を抱えたままうとうとしていたようだ。あたしを呼ぶ声でしっかり目が覚める。


「宍戸亮…!」

「フルネームかよ」

「ど、どうしてここにいんの!?」

「んー、あいつら面倒だから逃げてきた」

「…面倒ってひどくない!?みんな宍戸亮を想って祝ってくれてるんだよ?」

「そうかもしれねえけどよー」

「祝ってほしくても祝ってもらえない人だっているんだから…!」


あたしはぎゅうっと膝を抱えなおした。余計なことを言ってしまった気がする。あたしの頭上から「そっか」という声が聞こえて、階段を降りる足音も聞こえた。きつく言い過ぎたかもしれない。あんなに大勢に囲まれてたんだ、疲れるだろうし、面倒にもなるだろう。ああ、なんで少しカッとなっただけで考えなしに言っちゃうんだよ。ばーか。





「おめでとう」

「へ…?」


今すぐにもう一度聞くとは思わなかった声が聞こえて、パッと顔をあげる。


「あれ、違ったか?誕生日」

「あ、合ってるけど…」

「ん、やるよ」


宍戸亮は私に缶ジュースを差し出した。


「俺からのプレゼントだ」

「でもなんで、あたしが誕生日って」

「祝ってほしくても祝ってもらえねーって言ったとき、すげえ寂しそうだったし、俺の誕生日になるとやたら俺を睨んでただろー?それでなんとなくそうかなって」


あたしってそんなに睨んでたのか…。恥ずかしい。宍戸亮は俺天才だろとか笑いながらあたしの隣に腰をおろし、自分の分の缶ジュースを開けて飲み始めた。


「おまえも飲めよ。ぬるくなんだろ」

「う、うん。ありがとう」

「おう」


あたしは缶ジュースを開けてちびちび飲む。なんだろう、胸があつくなる。隣をちらりと見ると、目がばっちり合った。宍戸亮はニッと満足そうに笑顔を見せてくれた。どうしてこんなにいい人に八つ当たりなんてしてたの!あたしってば本当に大バカ者だ。


「あたしも、何かプレゼントする」

「んー、じゃあよ、フルネームじゃなくて普通に名前呼んでくれよ」

「え、それでいいの?」

「おう、フルネームはなんか嫌だ」

「そうだよね、じゃあ…亮くん?」

「ぶふーっ!!」


宍戸亮は勢いよくジュースを吹いた。


「いや、名前で呼べってそっちじゃなくて!」

「あっ、ごごごごめん!そりゃそうだよね!ごめん!恥ずかし!」

「ま、まあ別にいいんだけどよ」


あたしたちはお互い顔を真っ赤にさせてるに違いない。恥ずかしすぎる!でもまさか宍戸亮がこんなにも狼狽えるとは思わなかった。なんだか面白い。


「……だめだ!俺先戻ってるから!」

「う、うん」


宍戸亮は階段を素早く駆け下りる。すると、ピタッと足音が止んだ。


「小林ー!来年も俺が祝ってやるよ!」

「うん!嬉しい!ありがとー!あたしも宍戸くんの誕生日祝うよ!」

「ハハッ」


宍戸くんは照れながら笑ってくれた。胸がきゅうううっとなる。ずっと八つ当たりをしていたのに、あたし、宍戸くんをすきになっちゃったかも。

あたしは膝をきゅっと抱えて笑みをこぼした。


2012.09.29 happy birthday 宍戸亮

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