「そこ、段差あるから気をつけてね」
「う、うん」
俺たちは暗闇の中、墓の近くの石段を上ろうとしている。
なぜこんな場所にいるかっていうと、暑い暑い夏休みの最後のクラスイベント、肝試しをしているから。これが終われば残るは大量の宿題だけなんだよ…とほほ。
まあそれはさておき、この肝試しは二人一組でこの石段を上りきった先にある大きな木の幹にネームプレートを吊してくるというもの。
俺は小林さんとペアになった。俺には珍しく、彼女とはあんまり話したことがなかった。だからペアになれたのはラッキー!やっぱりいろんな女の子と話してみたいしね♪
「俺、今日はツいてるよ〜」
「え?」
「だってさ、君とペアが組めたんだもん」
「…は、えと、あの」
「あはは、照れてる?」
「うっ……」
あらら、俯いちゃった。それにしてもこの反応、すごく可愛いんだけど!なんだか新鮮だなあ〜。
「あ、そろそろだ!早く行こっ」
俺は何の気なしに小林さんの手をパッと取って大きな木まで走ろうとした。少しでも早く進んだ方が怖い時間が短くて済むだろうなって思ったから。
でも、
「きゃあっ!」
「え?」
俺の手はばさりと振り払われてしまった。
「ご、ごめん!急に手握っちゃったから驚いたよねっ」
「……あ」
「怖い?やっぱし手つないどく?」
俺が手を差し出すと、あたふたする小林さん。懐中電灯しか灯りがないけど、そうしてるのがよくわかる。
あ……もしかして、小林さんは俺が急に手を握っちゃったから驚いて俺の手を振り払ったんじゃなくて、単に俺と手をつなぐのが嫌だっただけだったりして…。
それだったら俺、超恥ずかしいじゃん!この手どうやって引っ込めよう…。
「…怖くはないの」
「え…」
「ただ私…、男の子に慣れてないから…その、えっと」
「…じゃあ手を振り払ったのは、恥ずかしかったから?」
「…!………うん、ごめんね…」
………
え、ちょ、やばい。今俺の心臓がすんごい暴れてる。あれ、ホントどうしようおかしい。心なしか顔も熱くなってきたぞ。
「あの…、千石くん?」
「へ?…ああ!ネームプレートねっ!このまま持って帰っちゃうとこだったよーあっはっはっ」
お、俺じゃない…。千石清純、今までいろんな女の子と話したりしてきたけど、こんな失態一度もないよっ!
小林さんってシャイなんだねー、可愛いなあ☆
くらい言えただろー、俺!
………一旦落ち着こう。女の子の前で、みっともない。
「…えっと…それじゃ、戻ろっか」
「…うん」
「……」
「……」
…あれ?俺、小林さんとどう接してたっけ?会話が途絶えるとかあり得ないんだけど。
「千石くん、あのねっ…」
「な、なあに?」
「私もね、肝試し、千石くんと…ペアでよかった」
「へ……ああ、そっか!それは嬉しいなあ、あはは」
役に立たない経験値
(意識し出すとまともに話せないって…、俺ダサッ)
企画サイト:夏色グラフィティ様
ありがとうございました(^O^)