「この辺やっけ?」
「……そーちゃう」
「何で光はそうやねん。もっと楽しそうにしいや」
「おまえ、今日何の日か知ってるか?俺の大事な休みの日や」
「せやからわざわざ光ん家行って起こしたってんやろ」
「起こしていらんわ」
ぶつくさ文句を言ってるのは私の幼なじみの財前光。せっかく十年前に埋めたタイムカプセルを掘り出すってのに、何でそんな無やねん。表情無すぎるやろ。昔はそこまで無やなかったんちゃう?
「あーもうええわ。ここ掘って」
「何がええわやねん。逆ギレすんなや」
「キレてへんし、拗ねてるんやし」
「それ、いっちゃんめんどい」
ザクザク、赤いスコップで地面を掘り起こす光はなんだか可愛らしい。小さい頃に戻ったみたい。そういえばよく光と砂場で遊んでた気がする。
「紗優も早よ掘れや。日ぃ暮れてまう。俺は家で寝たいんや」
「わかってるし」
ザクザクザクザク、こうしてると本当に懐かしい気分になるなあ。あの頃はもうちょっと仲良かったっけ?中学入ってからあんまし喋らんようなってしもたし、私これでも寂しい思てるねんで。こんなん光には口が裂けても言わへんけどな。
「光ー」
「んー?」
「私らよう砂場で遊んでたよな」
「…せやった?」
「遊んでたやん!バケツに砂入れて山作ってたん覚えてない?」
「あー……記憶の断片に」
「なんやそれ」
私結構いろんなこと覚えてんのに、光はこのままだんだん忘れていってまうんかな。そんで私のことも…。さびしいなあ。私、光大好きやのに。
ザクザク、ガチッ
「へ、変な音した。タイムカプセル?」
「これ埋めたって言わんからな。どんなけ浅いねんっ」
「10年もようもったなあ」
「早よ掘ってまおか」
私たちはタイムカプセルの周りを掘っていく。そしてそれはだんだんと姿を露わにした。タイムカプセルというには少し不細工な形をしていたが、そんなの関係ない。中身さえ確認できれば。
「開けんで」
「…おう」
私たちのタイムカプセルには、いろんな物が詰め込まれていた。当時大事にしていた小さな人形だとか、きれいな色のビー玉。それにいちごみるく味のあめちゃんに、サイン入り野球ボール。一時これで光とキャッチボールばっかりしとった。遅うに帰ってきてはようお母さんに怒られたなあ。
他には幼い頃の私たちの写真があった。無邪気に笑ってふたりでピースしてる。私たちの関係はこの頃と変わってしまった気がする。この世には変わらんもんなんか、ないんやろか。
「なあ、私な、光が遠く感じんねん」
「なんで…?」
「だって、光だけどんどん変わっていくねんもん」
「そら変わるわ。ずっとこんままやったらきしょいやん」
光は私たちの幼い頃の写真を指さしてそう言った。
「せやけど…、変わらんもんなんかやっぱしないんかな」
「……」
なんか、切ないなあ…。
私は意味もなくスコップで地面を掘ってみる。なんやいじけてるみたいや。
「…俺は変わらんもんもあると思うけど」
「え…?」
「例えば、おまえの阿呆さとか」
「…はあ!?何なん!こっちは真剣に…ーんっ!」
「そうやってすぐに顔赤くなるとことか」
えっっ!ちょお待って!何で?何でキス…なんかするん!どうなってんの!?
そんで何で光はそんな普通なん!好きな人にききキスされたらそら体中暑なって顔も赤くなるわっ。あかん、誰か氷持ってきてー!!
「好きやねんけど」
「は…?」
「俺の気持ちもあん頃から変わってへん。おまえと一緒でな」
「一緒って……えっ?な、なんで知ってんねん!」
「ちゃうんか?」
「ちゃ、ちゃうことあらへんけど…」
「ほなええやろ。ん、早よ帰るで」
光は私に手を差し出した。嬉しい。でも光の言うてること、信じてもええの?今までそんな素振り見せたことないやん。急にそんなん言われても、困る。
「ひか……」
「俺が、何とも思てへん奴にキスする思てんの?」
「……、思てへん」
「ほなええやんか」
今まで見たことないくらい優しく微笑む光にそんなん言われたら、信じる信じへんとかそんなんどうでもようなってまう。てゆーか、光を信じやん方がどうかしてる。……私も単純やな。
君にはかなわないや
おまけ→