「謙也ー、どないしたん?」

「んー?金ちゃんか。別に何もあらへんで」

「ただ好きな子出来てもうただけやねん」

「なっ!何言うてんねや白石っ!」

「ちゃうんかー?」

「ーっ…」


くっそー!白石めっちゃ腹立つ。でも確かに、白石の言うとおりや。

最近俺には気になる子が出来てしもた。しかも相手は全然知らん子。名前も性格も何もかも。ただひとつだけ知ってるとしたら、俺に向けてくれたあの笑顔だけや。つまり、一目惚れっちゅー話。


「その子ってあれやろ?この前の大会におった子やんな」

「せや」




俺がその子を見たんは、俺の試合が終わって、頭から水道の水被ってたときやった。いつもは首にタオルをかけたまま被ってるんやけど、そんときは何でか水道の上んとこにタオルを置いとったんや。そんでまあ頭からびしょびしょなってもうたから、手探りでタオルを取ろうとしてん。そしたら俺な、間違うて人の手掴んどったんや。まあその人っていうんが俺が言うてる子なんやけど。

あっこの水道壁に接してへんしもたれやすいから、そんなかんじで手置いとったんやろな。ちょうど真正面のコートで試合もしとったし。

んで、俺めっちゃ吃驚して、ぱって掴んでた手離してガバって顔上げたんや。そしたらその子も俺が掴んだんに吃驚してんやろな、こっち振り向いとって、俺が勢いよく顔上げたもんやから俺の髪の滴がその子に飛んでってしもたんや。

一瞬俺とその子の時間が止まった。やってしもた。手掴んだ挙げ句顔に水飛ばしてしもた。って、そんときはめちゃめちゃ焦っとったな。


「すんませんっ、これで拭いてください!まだ使てないんで」

「いえ、これぐらい大丈夫ですよ」

「いやいや、結構濡れてますって」

「そんなんあなたの方がびちょびちょですよ」

「俺はいいんすよっ!早く拭いてください」

「ほな、ありがとう…」



そう、このときの優しい笑顔に俺はノックアウト。ほんまに可愛すぎてどないしよ思た。(どうすることも出来へんけど)

俺はそれ以上その子と喋られへんかったし、その子ももう一回だけお礼言うて奥の方へと行ってしもた。それからその子とは逢うことはなかった。




「でも大阪の人なんやろー?」

「ほならまだ望みあるやん、謙也」

「…せやな!」


もう一度だけ、
そうやって願ったのは


君に俺の想いを伝えたいから
あわよくば、またあの笑顔を




企画サイト:first様 提出
ありがとうございました(^O^)

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