「絶叫」





 朝の目覚めは、一つの絶叫からだった。







――うわあああああああああ!!!






 突然の叫び声に、眠りから無理矢理たたき起こされた。
 時計を見ると、朝の7時。目覚めるには丁度良い時間だが、今の絶叫は何なのだろうか。
 遊星は、また覚醒し切れない脳で声があった方へ向かった。










「やべっ、やっべえええ!またやっちまった!」



「大丈夫?怪我はない?」




 騒がしい声はキッチンの方からだった。
 入り口からそっと中の様子を探ってみると、昨日顔を合わせた十代の姿があった。
 その隣には知らない顔。一体何があったのだろうか、ここからではよく分からなかった。




「どうしたんだ?」




 突然、背後から声を掛けられ慌てて後ろを振り返ると、クロウが眠たそうに欠伸をしていた。
 どうやら、同じように叫び声に起こされてしまったようだ。




「それが…ここからじゃよく分からなくて…」




 遊星の言葉を聞くと、クロウはそのままキッチンの方へ歩き出した。




「おいおい、どうしたんだ?すっげぇ叫び声だったけど」



「あー、クロウおはよう!それがさー、またフライパン焦がしちゃってさ」




 十代が申し訳なさそうに頭を掻いた。
 十代の手には、黒く焦げ付いたフライパンが握られていた。どうやら朝食当番だったようだ。
 クロウは呆れたようにため息をついた。




「十代さん、またかよー。これで何度目だ?」



「うーん…三度目?」




 話を聞いてる分には、こういうことが一度や二度起きてるようだ。
 フライパンを囲んで、「どうするんだよ」とブツブツ言っているのが聞こえた。

 遊星は、おずおずと三人の方へ近づいた。




「あ、あの…フライパンの黒焦げを落とす方法…知ってますけど…」




 男子三人の視線が、一気に遊星に注がれた。














「うおおおおすげえええ!!新品みてぇ!」



「へぇ、こんなに綺麗に落ちるもんなんだねー」




 先ほどの黒焦げが嘘のようにピカピカしている。
 劇的なビフォーアフターに二人は感動していた。




「こういうの詳しいのか?」




 クロウが遊星に尋ねると、遊星は軽く頷いた。




「家事とかはよくやってたから…こういう知識はあるんだ」




 「役に立ったようで良かった」と、遊星は微笑んだ。
 十代は、一言お礼を言うと、再び朝食作りへと向かった。




「そうだ、君とはまだ自己紹介がまだだったよね」




 青年は、柔らかく微笑んだ。




「僕は武藤遊戯、宜しくね」



「私は不動遊星です…宜しくお願いします」



 
 遊戯というその青年は、男性の割には柔らかい雰囲気を出していた。
 雰囲気だけで安心できる、そんな人だ。




「随分若いね?クロウ君と変わらないくらいかな?」



「俺より一つ下ですよ」



「そうか、じゃあ19歳なんだねー。僕は一応27歳だよ」



「えぇっ!?」




 またもや驚きの声を上げてしまった。
 十代もそうだが、遊戯はその上をいく童顔だ。どうみても27歳に見えない。それどころか、20代に見えることすら怪しい。
 ここに住んでいる人は、皆外見と年齢がズレているのだろうか。失礼な話だが、そう考えても仕方ない。

 一方、驚かれた遊戯はあまり気にしていないようでニコニコしている。




「そうそう、僕には双子の弟が居るんだ。後で来ると思うから、その時紹介するよ」




 更には双子と来た。この屋敷には他にどんな住民がいるのか。
 少なくとも、遊星と似たようなものを抱える人たちなんだろう。遊星は不安と同時に、軽い安心感を感じた。

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