「食堂」
ある程度荷物を片付け終ると同時に、部屋のドアがノックされた。
トントン、とリズムよく叩かれる音に、慌てて扉を開けた。
「はーい!」
扉の向こうには、先ほど屋敷を案内してくれたクロウが立っていた。
「片付け、ある程度終わったか?」
扉の方から辺りを見回す。手荷物として持ってきた物は服しかない。
他の荷物は、宅配に頼んでいる。届くのは明日頃だろう。
「今日持ってきたのは服だけだから…片付けは簡単だったよ」
「そっかー…じゃあ、本格的な片付けは後日ってわけだな」
クロウは大変だなーと一言呟くと、携帯を取り出して時間を確認した。
「そろそろ夕飯の時間だからさ、食堂に行こうぜ?まだ道順分からないだろ?」
クロウの言葉に、遊星は申し訳なさそうに頷いた。
「今日、何人揃ってんだー?」
食堂に入ると、初対面の顔ぶれが揃っていた。
クロウの言葉に、一人が指差ししながら人数を数え始めた。
「えーと、いち…に…さん…四人!今のところな」
「そんじゃ、食器四枚出してくれ」
クロウの言葉に、それぞれが食器棚の方へ向かった。
遊星は訳も分からずその場でキョロキョロしていると、一人の男性が遊星の方へやって来た。
「初めましてだよな?俺、遊城十代な。宜しく!」
「え、あ、不動遊星です…、宜しくお願いしますっ」
遊星が挨拶をすると、十代は人懐っこい笑みを浮かべて遊星を手招きした。
「飯食う時な、自分の食器を自分で持ってくるんだ。あの食器棚から、好きな食器持ってくるんだ。簡単だろ?」
十代の言われたように、皆と同じように食器を手に取った。
すると、また別の男性が寄って来た。
「あー、新入りかー!道理で見たことないと思った!俺、ヨハン・アンデルセンな。一応日本人じゃないぜ」
「おいおいヨハン、言われなくても日本人には見えないっての!」
「ははは、そうかーそれもそうだなー。宜しくなー」
「あ、はい…私は遊星です、宜しくお願いします」
凄く明るい人柄の十代とヨハン、これから生活する人たちとしては、気楽にいけるかもしれない。
ヨハンに教えられるまま、この食堂の規則に則って食事をした。
「クロウの隣人なんだって?じゃあ、俺等ともそんなに部屋は離れてないなー」
「困ったことがあったら、いつでも声掛けてくれよ」
とても人の良い人たちだ。初対面の時からずっと二人してニコニコしている。
裏表のない、心の底からの微笑みだ。なぜか知らないが、少し肩の荷が下りた気がした。
「十代さんとヨハンさんは、一応24歳な」
「えっ!?」
クロウの一言に、つい声を上げてしまった。
目の前にいる二人は、どこからどうみても24歳には見えない。よくて高校生ぐらいだ。
「俺等、そんなに童顔?」
「十代はともかく、俺はそうは見えないだろー?」
「俺ならともかくってなんだよ」
どちらが童顔に見えるか討論しているが、遊星の目からはどちらも童顔だった。
これほど24歳という年齢が似合わない人は見たことが無い。
「なぁ、遊星?遊星は顔見知りになったのは、俺とヨハンとクロウだけか?」
「えぇ、そうですけど…」
十代は、お茶の入ったコップを手に取り、軽く口に含んだ。
「ということは…一番の難関はー……あのフリーダムだな」
十代の言葉に、遊星は首を傾げた。
「フリーダム…?というのは?」
遊星がそう聞くと、クロウは途切れ途切れに口を開いた。
「まあ、なんつーか…ここに住んでる住民の一人で…その…、なぁ?」
「簡単に言えば…癖の強いただのフリーダム?」
ヨハンさんの一言で、更によく分からなくなった。
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