「隣は埋まってます」






『隣は埋まってます』










――〜♪…〜♪…






ク「はいはい、もしもし?」


 『あ、クロウ?今時間大丈夫か?』


ク「お、遊星か。どうした?」


 『ちょっと、父さんがクロウに用があるみたいなんだ。来てくれないか?』


ク「親父さんが俺に?何の用だ?」


 『さあ…?迷惑だったら無理して来なくていいぞ、父さんのことだしな』


ク「いいや、大丈夫だぜ。今から行くわ」


 『…分かった、待ってる』














ク「それで、何か用ですか?」


不「実はね、ちょっとクロウ君に頼みがあってね」


ク「頼み?」


遊「無茶な頼みはするなよ?」


不「その頼みというのが、ちょっとモデルになってくれないかなーって」


ク「……モデル?何の?」


不「タキシードの」


ク「……はぁ、タキシード。……タキシード!?」


遊「どういうことだ?」


不「知り合いに頼まれてね、雑誌のモデルさんを探してるんだ。若くて引き受けてくれそうな人を」


ク「何でタキシード!?」


不「ブライダル雑誌だからー…タキシードのモデルさん」


遊「なんでクロウなんだ?ジャックでもいいじゃないか」


不「だって、一緒に花嫁さんの写真も撮るって言うから…花嫁は遊星にさせてあげたいし…」


遊「俺が花嫁!?」


不「だったら、クロウ君も断らないだろうし…遊星は文句言わないかなって…思って…」


ク「だからって…何で俺…」


不「予行練習(キリッ」


ク「(なんのだよ)」


不「……ダメかな?二人の結婚式の予行練習にもなるだろうと思って…」


遊「…………」


不「だ、ダメ?ゆうちゃん…?」


遊「俺は構わないが」


ク「はっ!?」


遊「その…クロウのタキシード姿見たいな、って…思って…その…///」


ク「(ぐっ…可愛い…っ)」


不「ゆうちゃん、本当かい!?クロウ君、やる気はないかい?!」


ク「……はぁ、分かった分かった、やればいいんだろ、やれば」


不「有難うクロウ君!早速電話するよ!」







――バタバタバタ…







遊「……よく引き受けたな?」


ク「……遊星の花嫁姿、見たいし…」


遊「……きっと似合わないぞ」


ク「似合うに決まってんだろ。どう考えても似合うに決まってんだろ」


遊「……クロウはちょっと…盲目すぎないか?」


ク「お前に言われる筋合いはねーな…お互い様だろ?」


遊「……それも…そうかもしれないな。クロウはきっとタキシード似合うぞ」


ク「ほら、俺に対して盲目的」


遊「お互い様だな、本当」


ク「幸せだからいいんだけどぉー」


遊「……俺も」



















ク「あー、タキシード苦しっ。勝手悪い」


不「まあ、肩っ苦しい服だよね」


ク「髪の毛までバサーッと下ろされて前髪うざったい」


不「流石に立てたままってのはアレだから仕方ないよ」


ク「帰りてぇ」


不「着替えて5分も経ってないよ。もう少しの辛抱だ」


ク「まさかタキシードがこんなに苦しいとはな…」


不「でも似合ってるよ。カッコいい、カッコいい」


ク「お世辞に聞こえる」


不「やだなぁ、私はお世辞が大の苦手なんだ。馬鹿正直で通ってるからね」








――コツッコツッ…







遊「う…ごきにくい…っ」


不「ゆうちゃん綺麗!美人!でも蟹股は止めようか!もっと清楚にね!」


遊「だって歩きにくいんだ…ずるずると引っ張るしか…っ」


ク「お転婆な花嫁に見えるぞ」


遊「どう見えてもいいさ、今すぐにでも脱ぎたい」


ク「それなんてご褒美だよ」


不「全く、二人とも忍耐力がないなぁ。準備出来たって伝えてくるから、待ってるんだよ?」










遊「それで、どうだ?似合ってるか?」


ク「似合ってる似合ってる、すっげぇ綺麗」


遊「馬子にも衣装じゃないか?」


ク「まさか。俺は嘘もお世辞も言わねェって」


遊「知ってる。フフ、有難うクロウ。クロウもカッコいいぞ」


ク「なんか複雑だけどな」


遊「まさか高校生で着ることになるとはな」


ク「早すぎるぜ、本当。あー、首が苦しい」


遊「もう少しの辛抱だ。頑張るしかないだろう」


ク「……早く解放されてぇ…」














不「はい、お疲れ様!」


ク「終わったぁ…っ」


遊「やっと脱げる……っ」


不「さあ、後は卒業後だね」


ク「は……?」


遊「父さん…先走り過ぎだ…」


ク「気が早いって…」


不「でも否定はしないんだね」


ク「うぐっ」


遊「……否定は…しない…」


不「楽しみだなぁ、3年後!」


ク「……また勝手に盛り上がってるし…」


遊「……父さんだからな…」




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