「案内」





 長く続く広い廊下は


 まるで迷路までの迷い込む道のように思えた



 そんな心境だった









 広い廊下を、クロウの案内で進んでいく。
 数々の部屋を通り過ぎ、突き当りを左に曲がると、一際大きな扉が現れた。

 クロウが取っ手を掴み扉を開けると、雲ガラスの引き戸と棚が目に入った。





「ここが浴室な。ちなみに、浴室は共同だから」




「えっ?!」





 私は信じられないという声を上げた。
 それに、クロウも苦笑しながら頬を掻いた。





「普通は分かれてるもんな…、驚くのも無理ないぜ…。でもまあ、遊星が入居したことで、遊星が一番最初に風呂に入るようになると思うからさ!」





 クロウのせめてものフォローに、遊星も文句は言えなかった。剛に入っては剛に従え、だ。

 浴室を後にし、再び廊下を進んで行く。
 クロウは結構几帳面なようだ。そして面倒見が良いようだ。
 初めての俺に、細かく丁寧に部屋の事を教えてくれている。

 きっと、ここでの生活も長いのかもしれない。






「――で、ここがリビング…まあ、談話室ってところかな」





 何十人ものの人数が座れる、大きなテーブル。
 そして、その隣の部屋には居間のような空間が広がっていた。
 テレビを真ん中に、四人掛けソファーが3つ程。ここで皆がゆったりと過ごすのだろう。

 クロウは、その部屋の壁に掛けてあるホワイトボードに指を指した。





「そして、あのホワイトボードの使い方。何か用件があって帰宅が遅くなるときは、前もってあのボードに書いておくんだ」




「…なんのために?」




「ここの食事は当番制なんだ。だから、全員の帰宅時間を把握しておかずを作るんだよ」





 私は忘れないようにメモを取った。
 ここはどうやら、ほとんどのことが共用且つ当番制のようだ。特に苦痛は感じない、が…。





「大体のことは説明したけど…何か質問とかあるか?」




「あ…、ここにはクロウ…さん以外で何人居るんだ…?」




 俺がそう言うと、クロウはニッコリ笑って答えた。




「クロウで良いって!ここには俺以外に男が六人いるぜ?」




「え…あの…男、だけ?」




「まあ、今のところは男六人だな。女は…管理人くらいだ」




 今の私を、「血の気が引く」という状態だと言えるのだろう。きっと真っ青になっているに違いない。
 私の異変に気付いたのか、クロウが心配そうに顔を覗き込んだ。




「お前、大丈夫か…?ここまで来るのに疲れたとか?」




「い、いやっ大丈夫!なんでもない!部屋に戻って荷物を整理しなくちゃ…っ」




 慌てて廊下を引き返すと、クロウが咄嗟に呼びとめた。




「え、お、おい!来た道分かるか?!」




 クロウの問いかけに、思わず足を止める。
 ここはとてつもなく広い洋館だ。来た道など、全く覚えていない。
 周囲を見渡しても、同じ光景にしか見えないのだ。
 キョロキョロしながら慌てふためいていると、クロウが私の前まで来、手招きをした。




「こっちだ、こっち!最初は誰でも分かんないからな、元来たところまで送るって」




「え、でも迷惑じゃ…」




「何言ってんだ。俺、お前の隣人だろ?帰る道は一緒じゃねーか」




 それもそうだ。大人しくクロウについて行くしかないようだ。
 
 元来た道を引き返しているようだが、やはり私には何処も同じ道にしか見えない。
 扉も絨毯もシャンデリアの造りも同じ。分かるはずがない。




 ここに来ての最初の難関は、どうやら道順のようだ。



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