「隣人」
人は見た目で判断するものじゃない。
母親からよく言われていた言葉だ。
その言葉を、体験できるとは思わなかった。
【102】の部屋をノックした。
隣人は誰だろうと心躍らせていると、中から男性の返事が聞こえた。
反射的に身体を固まらせてしまう。
扉はすぐに開いた。
中から出てきたのは、派手なオレンジ色の髪をした不良のような黒い服の男性だった。
目の前に立つ私を見て、キョトンとしている。
「えと……どなた?」
男性が首を傾げたので我に返り、震えそうな声を堪えて挨拶をした。
「あの…今日から隣に入居した、不動遊星です…宜しくお願いします…」
男性は、「あぁ!」と納得すると、人懐っこい笑顔を見せた。
「新入りかー!俺はクロウってんだ、宜しくな!」
どうやらクロウと言うようだ。
私は明日香さんに言われたことをクロウに伝えると、クロウは私を部屋に招き入れた。
クロウの部屋は、必要最低限の物しか置いておらず、綺麗に片付いていた。
あるファイルから一枚の紙を取り出し、プリンタでコピーし始めた。
「とりあえず、ゴミ出しの日が書かれた紙をコピーしてやるから」
クロウから渡された紙には、ゴミ出しについての事がこと細かく書かれていた。
クロウに手帳を貸すようにと合図され、持っていた手帳を渡すと、クロウはテーブルにそれを置いて腰を下ろした。
「まあ、気楽にしてくれよ。ベットに腰掛けていいからさ。とりあえず大事なことは説明しながらメモってやるから」
クロウはそう言いながら、私の手帳にメモをし始めた。
見た目は不良っぽいが、随分と人の良い性格をしているようだ。見た目とのギャップが新鮮だ。
「――…で、中庭の方は出入りは自由。庭の水遣りは当番制な?それから食事当番だけど…」
そして、説明の仕方も丁寧だ。
隣人が男性だと分かり、少々不安になったがクロウのような人だと心配はあまりなさそうだ。
手帳にペンを走らせるのを止めた。どうやらメモできることはメモし終わったようだ。
クロウから手帳を受け取ると、クロウはその場から立ち上がって扉の方へ向かった。
「とりあえず、屋敷内を案内するから…迷わないようについて来てくれよ」
私は軽く頷いた。
屋敷の外観を見る限り、建物は相当大きく内部も入り組んでいるのだろう。
クロウの言うとおり、迷わないように大人しくクロウについて行くことにした。
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