「Ruins -Ein.3-」









 シャッターを開けてから、そのまま進むと、廃車になった列車内に来た。
 どこも錆びつき、座席のカバーは捲れて、中の鉄が見えている。

 数十年間、このまま放置された列車内はとても冷たく、とても寂しかった。





 列車の中を歩いていくと、焼けた草原へ出た。
 何故こんな場所に続いているのか。

 ここは元々、緑が生い茂っていたのだろうが、今はただの茶色が広がる焼野原。







――ここには何もないみたいです。…一度、構内に戻りましょう








 遊星は、今来た道を引き返した。
 






「なぁ、聞いて良いか?」







――なんでしょう







 遊星は、今まで聞くタイミングが無かったことを聞いた。






「名前、なんていうんだ?」






――そういえば、説明していませんでしたね。

  僕は人工知能。持ち主のサポートをする、携帯対話型AIです。
  通称“PF-パーソナルフレーム-”機種は“Bruno”






「じゃあ…ブルーノと呼んでいいか?」







――構いません







「それから、もっと砕けた話し方で良いんだぞ?」







――これでインプットされているので…





「慣れればいいさ。俺の名前は遊星。宜しくな、ブルーノ」







――宜しくお願いします、遊星













 再び、駅構内まで戻ってきた。どうやら思念体はいないようだ。
 だが、いつどこに現れるか分からない。用心深くライトを照らして、安全を確認する。




「さあ、ブルーノ。どこへ向かえばいい?」





 
――駅構内の2階へ上がる階段を探してください。そこから商店街へ出れます






 階段は先ほど見かけた、恐らくそこへ向かえばいいだろう。
 早く外に出ないと、ここがいつ倒壊するか分からない。

 遊星は、ブルーノを背負い直し、そのまま走って階段の方へ向かった。





 

 商店街へ出ると、外に出られた安心感か身体から一気に疲れが出た。
 思いっきり、その場でしゃがみこんでしまう始末。






――大丈夫ですか?」






 ブルーノは、そんな遊星が心配なせいか声を掛けてきた。
 心配を掛けまいと、軽く「大丈夫」とだけ答えた。






――遊星、見て。向こうに焚火のできる所がある







「……本当だ」







――あそこで焚火をしながら休もう。火を焚いていれば、思念体も寄っては来ない





 ここでしゃがみ込んだままだと、後ろから思念体が追いかけてくるかもしれない。
 休む前に、完全な安全を確保するのが先だ。

 遊星はその場から起き上がって、その場所へ歩き出した。








 滅んだ世界は酷く寒い。

 熱源が無いからだ。電気も火も何もない。挙句の果てには人もいない。だからこそ寒かった。

 焚火の熱が、そんな遊星を温めてくれる。
 この温かみが久しぶりのように感じて、ゆらめく光を見つめた。






――温かい…ですか?






 ブルーノの問いかけに、遊星は軽く微笑んで答えた。






「うん。温かい…」





――そうですか…温かい、ですか…






 心なしか、ブルーノの口調がまるで嬉しそうに感じた。

 ブルーノは機械だ。
 だが、遊星にはそうとは思わなかった。





「ブルーノ、このまま歩けば……どこへ着く?」







――恐らく、遊園地ですね







「ゆう…えんち…?」







 遊星は、“遊園地”を知らない。
 自分が生まれたときには、すでに世界は滅んでいたのだ。知らないのは仕方がない。

 だが、本などで読んで、凄く楽しい場所ということは知っていた。






「そうか…ゆうえんちか…」






 密かに見てみたいと思っていた遊園地。遊星は行くのが楽しみになった。


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